(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝12人の優しい日本人〟パルコ劇場プロデュース

ミステリにおける法廷劇のパターンは、おおよそこんな感じだと思う。刑事告発を受けた被告人が登場し、冒頭、彼または彼女は決定的ともいうべき厳しい状況に立たされている。その後、裁判の中では、目撃者の証言がなされたり、新たな証拠が見つかったりするものの、被告人の容疑は深まるばかり。そして判決を目前に控え、絶体絶命と思われたその時、晴天の霹靂ともいうべき新事実が明らかになり、被告人はめでたく自由の身となる、ちゃんちゃん。とまぁ、正義の実現というシンプルながら力強いカタルシスが、古くはペリー・メイスンの世界や最近でいえばリーガル・フィクションの人気を支えてきたと言っていいだろう。
TVの古畑任三郎などでお馴染みのように、推理ものを得意とする三谷幸喜が、この法廷劇の分野に関心を持つのは当然のことといえば当然のことで、この「12人の優しい日本人」は、過去にも3度だったか上演されているし、中原俊で映画化も実現している。三谷には、東京サンシャインボーイズ時代に、「99連隊」という軍隊を舞台にした異色のリーガルものもあるのだが、これだけ上演を重ねるところをみると、やはり愛着の深いのはこの「12人の優しい日本人」なのだろう。今回のパルコ劇場は、まさに意中の役者たちを揃えて、満を持しての再演といえそうだ。
陪審員の控え室。ある事件の評決のために、12人の男女が集められている。事件は、女性の被告人が、元夫を走ってくるトラックの前に突き飛ばして殺したというもので、話し合いの冒頭、全員が無罪と意見を表明した。あっさりと評決に至ると思いきや、ひとりが意見を覆して有罪を主張したことから、一転して議論は白熱。有罪の疑いが、12人の中に広がっていく。そして、ついに有罪の意見が多数を占めるに至るが、ところが頑なに無罪を主張する陪審員がいた。そこで、再びふりだしに戻らざるをえなくなった12人は、事件の模様を再構築していくことに。
12人もの男女がいて、なぜか正義感にあふれたキャラクターがひとりもない。三谷の芝居は、そういうつくりものめいたキャラを登場させないシチュエーションを出発点にしている。最初は烏合の衆に過ぎなかった彼らが、やがて否応なく事件について真剣に検証、議論に没頭する。投げやりだったり、無関心だったりする者もが議論に加わり、やがて真相へと肉薄していく。その過程で醸成されていく緊張感が、なかなかスリリングだ。
いかにも三谷らしく味付けはユーモラスなのだが、さまざまな人間模様が繰り広げられるなかで、それぞれの人間性を露わにしていく脚本は、やはり何度観ても非常によく練られている。また、容疑者の言葉をめぐり、最後に鮮やかな逆転を見せる推理劇としての構造も、人を食った面白さがあって、見事な出来映えだと思う。
ちなみに、東京サンシャインボーイズ時代には、決まって相島一之梶原善が演じていた要となる役は、今回生瀬勝久温水洋一が演じている。どちらも芸達者な役者だが、このキャスティングが変わったことによって、芝居の色合いがちょっと違ったものになった印象もある。(決して悪い意味ではなく)最後に、その他のキャスティングについても、以下に記しておく。(陪審員はすべて数字の号数で呼ばれる)
陪審員1号浅野和之、2号生瀬勝久、3号伊藤正之、4号筒井道隆、5号石田ゆり子、6号堀部圭亮、7号温水洋一、8号鈴木砂羽、9号小日向文世、10号堀内敬子、11号江口洋、12号山寺宏一

■データ
2006年11月30日ソワレ/渋谷パルコ劇場