(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝上海〜新人少女歌手・青春シャンソンショー〜〟B-amiru Shor

今年オープンした吉祥寺シアター柿落としとして6月に上演されたKERA・MAPの「ヤング・マーブル・ジャイアンツ」は、オーディションという登竜門をかいくぐった発展途上の新人たちがこぞって出演したという、良くいえば新鮮、悪く言えば青臭いところのある舞台だった。とにかく若手の出演者が目白押しで、総出のダンスなどは圧巻だったけど、集団の中に埋没してしまった役者も多かったのはやむをえないところだろう。
そんな中で、個人的に印象深いのは、間奏曲のように挟まれるふたりのOLのエピソードである。ふたりのOLが、倉庫整理のためにひたすらダンボール箱を運ぶ、ただそれだけの話なのだが、そのOLの一方を演じた小林由梨という初めてみる女優のチャーミングで涼し気な容姿と、飄々とした存在感がひどく気になった。当日無料で配られた豆本仕様のプログラムで彼女がB-amiruという劇団に所属していることをつきとめ、インターネットでその次回公演を探し、この日、下北沢のOFFOFFシアターへと足を運ぶことになったのは、実はそんな理由だ。
劇団の人気か、それともKERA・MAPの効果か、小さなキャパシティの劇場はほとんど満員状態。開演時間を過ぎ、舞台の幕があがると、ある母子家庭のお茶の間から始まる。一家の父親が家を出ていること、ふたりのこどもたちの姉の方は上海でシャンソンの歌手になることを夢見ていることが、明らかにされる。しかし、そこで本筋にはあまり絡まないコントがいくつか挟まれる。やがて、物語は上海へと向かう船に乗る姉を弟が見送る大団円を唐突に迎える。
B-amiruは、小林の他、岩島もも、そしてイチキ游子の三人の女性たちからなる劇団で、座長のイチキは近日公開予定の映画「お正月」でメガホンもとっている才人らしい。しかしながら、今回の芝居は、絶望的なくらいに寒い出来映えだ。何よりも、致命的なのは、笑いをとるべきコントがまったく笑えないことだろう。
こういう場合、お目当ての女優を眺めて溜飲を下げるというのが定石なのだろうが、肝心の小林もどこか冴えない。TVやCMから引きが来るのも十分に頷けるくらい、なかなかの美貌の持ち主で、それはKERA・MAPの時と変わらないのだが、しかし「ヤングマーブル・ジャイアンツ」で見せたしたたかな煌きが、この日はこれっぽっちも見られないまま幕となってしまった。演出のせいなのか、それとも本人が不調なのか。ともかく残念至極である。できることなら、別の機会に、もういちど溌剌とした彼女を観てみたい気はするのだが。

■データ
2005年9月2日/下北沢OFF・OFFシアター