(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝レイクサイド マーダーケース〟

原作は、東野圭吾の「レイクサイド」。それを映画化にあたって、「レイクサイド マーダーケース」とした製作サイドのセンスをまず称えたい。ミステリのタイトルでは定番ともいうべき殺人事件(マーダーケース)という響きには、安直さと裏腹の不思議な効果がある。それを付けただけで、謎解きや犯人探しの興味がぐっと前面に出てきた感じがする。ま、マニアックなミステリ・ファンのおたくな妄想やもしれないが。
主人公のカメラマン並木俊介(役所公司)が、仕事明けの朝に駆けつけた先は、湖畔のバンガローだった。そこでは、名門中学受験を目前に控えた子どもたちとその家族が集まり、塾の講師を招いて合宿を行っていた。集まった家族は3組。すでに妻の美菜子(薬師丸ひろ子)とは離婚している俊介だが、娘の舞華の受験のためにふたりで参加していた。講師の津久見豊川悦司)は、子どもたちに勉強を教える一方で、両親たちには親子面接の手ほどきをしていた。
ところが、その夜、雑誌編集者の英里子(眞野裕子)が、バンガローに現れる。彼女は、俊介の浮気相手だった。彼女が現れた理由が分からないまま、表面を取り繕う俊介。夕食の食卓をともにし、ホテルへ引き上げた彼女を俊介は追うが、英里子とは会えなかった。そんな彼をバンガローで待ち受けていたのは、深刻な顔をした両親たちだった。そして、彼らの傍らには英里子の死体。俊介の恋人が現れたことに逆上した美菜子が、花瓶で撲殺したのだという。スキャンダルを隠蔽するために、死体処理への協力を迫られた俊介は、藤間(柄本明)関谷(鶴見辰吾)とともに、死体を車で運び、顔を潰した上で重しをつけて湖に沈める。
ミステリ映画としてはよく出来ている。東野圭吾の原作は、「秘密」や「白夜行」など、代表作といわれる作品に較べると知名度は低いかもしれないが、伏線の張り方から意外な犯人までがなかなか気が利いていて、本格ミステリとしてのクオリティは非常に高い。この映画は、原作のそんな長所を見事に引き継いでいると思う。
主演の薬師丸ひろこは、あきらかにかつての「Wの悲劇」を引き継いだ役柄の造形となっているが、往年の輝きこそないものの、堅実な演技で難しい役をこなしている。役所公司もいまさらでもない好演だが、物語に膨らみを与えているのは、豊川悦司柄本明杉田かおる鶴見辰吾黒田福美といった脇役陣だろう。彼らの癖のある存在感で、推理劇としての面白味はかなり高まったといっていい。
お受験という社会派のテーマへも接近するが、基本的には本格ミステリとしての謎解きがなんといってもセールスポイントで、映画化にあたって原作者の東野が「そう料理してもいいが、犯人だけは変えないでくれ」と言ったとか、言わなかったとか。もちろん、犯人は原作どおりである。
だだし、原作は種明かしが終わったあとも、余韻を醸すことに成功していたが、映画ではそれに失敗している。いくらなんでも、あの幕切れでは、きちんと着地が出来ているとは言い難い。B級のホラー映画じゃあるまいし、もう少し気の利いたエンディングがほしかったところである。[★★★]

(以下ネタバレ)
犯人は、子どもたちの誰か(または全員?)だった。裏口入学の不正をめぐって取材をしていた英里子が津久見に問い正しているのを耳にした子どもたちのひとり(または全員)が、彼女を湖畔の砂地で撲殺したのだった。それを津久見が発見し、俊介と美菜子の夫婦関係を利用し、美菜子が殺したことにして、事件を隠蔽しようとした。自分の子どもが3分の1の確立で犯人であること、さらにはこのスキャンダルがもとで受験に失敗することを恐れた俊介以外の親たちは死体処理の協力したのだった。その事実を知らされた俊介も、また事件の真相を胸の奥に封印する決心をする。