(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ピクニック・フォー・ヒューマン・ライフ〟damim第5回公演

damim(ダミーム)は、TVなどでお馴染みの俳優宇梶剛士が主宰するコアな芝居を見せてくれる劇団(ユニット)との触れ込み。ルーツは、美輪明宏渡辺えりと宇梶本人は語っているようだ。今回の第5回公演は、なんと4年ぶりらしく、わたしは初見。NYLON100℃からの村岡や阿佐ヶ谷スパイダースの中山といった役者たちの名に惹かれて、中野に足を運んでみる気になった。
冒頭に、ふたりの少年が楽しそうにキャッチボールをしている短い場面があって暗転、そこから物語が始まる。富士の樹海の奥と思われる岩場に、若い女性と中年の男がいる。彼女ミヤコ(村岡希美)は友人を捜しにやってきたこの樹海で道に迷ってしまった。猟銃を抱えたハンターの格好をしたオジサン(荒谷清水)は、しきりに具合の悪そうなミヤコを気遣う。やがて、丁寧に道を教わったミヤコは出発する。しかし、入れ替わりに現れた十代とおぼしきカップルの男に、先ほどまでとは豹変し、激しい調子で猟銃を突きつけるオジサン。カップルは心中するためにこの樹海へやってきたのだった。
カップルがほうほうの体で逃げ出すと、今度は別のカップル、コウサク(友寄有司)とセツコ(信川清順)がやってくる。彼らは、友人を捜しに、この樹海へやってきたという。行方の判らない友人は、父親を殺したと思い込んでいるという。彼らやミヤコが探しているのは、やがて登場するひとりの青年シンタロウ(中山祐一朗)で、彼もまたあるものを探して、この樹海へ迷い込んだのだった。それは、彼が大切にしていた愛犬ロックだった。男は、シンタロウを自殺志願者だと決めつけ、激しい調子で責めながら、猟銃を向ける。
岩の間を飛び回る不思議な少女(藤谷文子)と彼女に寄り添う記憶をなくした男(宇梶剛士)、最愛の娘を失い夫婦関係崩壊状態となっている男女と、登場人物も多く、舞台上を出たり、入ったりと、めまぐるしい。しかし、物語のキーパースンは、脇役ではありながらオジサンといわれる男で、これを岩谷清水が迫真の演技で、自殺志願の若者を震え上がらせる狂気すれすれのキャラクターを造形している。彼の存在感が、この芝居全体に緊張感をもたらしているといっても過言ではないだろう。
(以下ネタばれあり)さらに、記憶をなくした男が実は犬で、彼が執着していた不可解な代物が、かつて飼い主と遊んだボールがボロボロになったものだということが判るくだりは、巧妙な伏線もあって、感動すら憶えた。全体に不条理劇の様相を呈している芝居だが、構造的には非常に理性的に、しかも上手に作られている、と感心した次第。
物語中盤に、にわかに前面に出てくる暗闇を具体化したイメージもなかなか強烈だ。おそらくは登場人物の誰かの妄想か悪夢を具象化したものなのだろうが、このダークファンタジーっぽい展開が、うすっぺらな人間劇に終わることから救っている。唐突とも思える展開だが、実に演劇的な面白さが滲み出た脚本だと思った。

なお、会場の中野ザ・ポケットは住宅街の中という静かなロケーションもいいし(近隣との関係を保つなどの苦労はあるだろうが)、舞台、客席の広さもなかなか小劇場の芝居に向いた、いい小屋だとは思うのだが、客席の床を歩くと、開演中に靴音がやたら響くのには閉口させられた。開演後に遅れて入場してくる客も客だが、吸音性の高い敷物をしくか、床の構造を変えるなどの工夫をぜひお願いしたい。

■データ
2005年8月27日ソワレ/中野ザ・ポケット