(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝事件〟THE SHAMPOO HAT #18

ここのところ、この劇団の俳優2人が客演する芝居に立て続けに行き逢い、その不思議な存在感に興味がわいた。KERA・MAPの〝砂の上の植物群〟に出ていた赤堀雅秋と、劇団、本谷有希子の「乱暴と待機」 の多門優である。いずれも、個性的な役者たちがそれぞれ熱演する中でも、アクの強い演技で、ひときわ異彩を放っておりました。
というわけで足の向いたTHE SHAMPOO HATの「事件」である。ミステリ好きは、「事件」と聞けば、ベストセラーとなった大岡昇平の同題の小説(野村芳太郎監督で映画にもなった)を思い起こすであろうけれども、大岡の小説が社会派であったとすれば、こちらはサイコ・スリラー仕立て。降り止まない雨の物語である。
その町では、中年女性ばかりを狙った連続通り魔殺人が人々を震憾させていた。今日もまたひとり、買い物帰りの主婦が犠牲となり、高橋(野中孝光)と石井(日比大介)の刑事コンビは、被害者の息子一美(多門優)と娘の宏美(滝沢恵)に、事件の状況を説明していた。手がかりと思われるものは、現場に残された数本のねじ。一向に解決の見通しがたたない警察に業をにやし、刑事たちにキレまくる一美。
一方、町の病院には、頭の怪我で入院している金物屋を経営する小峰春彦(黒田大輔)がいた。彼は、こどもの頃から残虐性と妄想癖があり、兄の夏彦(赤堀雅秋)は彼の行く末を心配し、実家の金物屋を彼に継がせ、自分はスーパーの店員としての毎日を送っていた。
やがて、降り続く雨の中で再び事件が起き、今度はこともあろう刑事のひとりも犠牲になってしまう。
ドラマの中心にあるのは、妄想である。春彦は、異様なまでの鯨への憧憬を心の中で膨らましている。また、汚いアパートの一室で、パンツ一丁と浮き袋という不快な姿で、この降り止まない雨がやがて第二のノアの大洪水に繋がると確信している池田翼(福田暢秀)がいる。そういった市井の狂気に対して、なすすべもない警察や被害者、そして犯人の兄である夏彦。降り止まない雨の中、彼らの焦燥は次第に水かさを増し、やがて決壊する。
下世話なやりとりの中で、深く静かにドラマを進行させていくあたりの手法は、さすがに手馴れたものがあり、舞台美術も担当するという福田暢秀の五分割の舞台装置とともに見応えがある。ただし、そもそも犯人は最初から見当がついてしまうので、ミステリとしての興味が希薄なのは惜しまれるところだ。この芝居の劇場に冗長という評価が多かったように見受けるが、原因はそのあたりにあるに違いない。
役者たちは、ひとりひとりが達者で、ほかにも医師の青柳(小玉貴志)など、わけのわからない狂言回しで観客を煙に巻き、面白い効果をあげていた。もちろん、赤堀と多門も、期待通りの熱演だった。

■データ
2005.6.2ソワレ/下北沢ザ・スズナリ