(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝死に花〟

原作は太田蘭三の小説。それを犬童一心が映画化。勝手にドナルド・E・ウェストレイクか天藤真あたりの痛快なクライム・コメディを期待したいところだけれど、それはいくらなんでもないものねだりというものか。ともあれ、DVDのパッケージに、クールに佇む4人の初老の男たちの姿があり、それがやけに清々しく思えて、観てみたくなった。
有料老人ホームで何不自由ない日々を送る老人たち。しかし、彼らの中には、余生を送ることに対する焦燥と諦めがそれぞれに去来していた。そんな中で、仲間の源田(藤岡琢也)がこの世を去り、葬送曲がわりに軽快なジャズが流れる洒落た葬式が行われるが、彼は仲間たちに遺書代わりの計画書〝死に花〟を遺していた。そこには、近所の銀行を襲撃するプランが書かれており、近所の河原から地面の下を掘り進み、地下の金庫に真下から穴を穿けるという大胆不敵な内容だった。
菊島真(山崎努)、穴池好夫(青島幸夫)、伊能幸太郎(宇津井健)、庄司勝平(谷啓)の四人は、河原で暮らす浮浪者(長門勇)を仲間に抱き込み、穴掘りの最新鋭の道具を揃え、計画に着手する。ところが、工事を始めるやいなや、ターゲットの支店が合併により閉鎖されることが判り、計画を急がねばならなくなった。必死になって掘り進む彼らの努力が実り、あと一歩というところまで漕ぎつけた彼らだったが、そこに折あしく台風が接近する。菊島は、トンネルの入口を土嚢で塞ぐために、現場にひとり戻る。いつまで立ってもホームへ戻らない彼を心配して、皆は現場にかけつけるが、そこには呆然と佇む菊島がいた。彼は、そこに何をしにきたのかを失念してしまい、トンネルは溢れた水が流れ込み、水没してしまっていたのだ。
高齢者問題を避けて通れないことは想像がつくが、それが深刻なテーマとして観客の目に映るようでは、クライム・コメディとしての成功はおぼつかない。犬童監督は、菊島と明日香鈴子(松原千恵子)との老いらくの恋を描いたり、1000人斬りをめざすと豪語する穴池の老いて益々盛んな行動をコミカルに描くことで、シリアス一辺倒になるのを防いではいるが、時にそのテーマが重たく観客に重くのしかかってくるのはやむをえないところだろうか。
台風が来てからの破天荒な展開は、そこまでやるか、という過剰感が湧いてこないではないが、大胆さがあってなかなか痛快。いくらなんでもそれは無理(あれで警察が来ない、というのはありえないでしょう?)、という次元の問題なのだが、SFX駆使のスペクタクルも見せ場になっていて、見所にもなっている。ただし、ラストシーンで菊島が子どもに戻ってしまうのは、身につまされた。考えてみると、〝初老〟とは、古くは四十過ぎに対する総称であったとか。もはや高齢者予備軍のわたしに、その切ない結末を笑う余裕はなかった。
闊達なヒロインとして登場する星野真理が颯爽としており、ほれぼれするが、あまりプロットに絡んでこないのが惜しまれる。逸材だと思うのだが。[★★]

(以下ネタばれ)
トンネルに流れ込んだ水の力は、銀行の土台を動かし、建物を傾かせてしまう。ここぞとばかり、建物に入り込み、金庫を破ろうとする4人組。朝までの突貫工事で、見事強奪作戦は成功する。
トンネル掘削の過程で、戦時中の防空壕と思われる空間を発見する。そこには、大人と子どもの曝首と人形などの遺品があった。遺骨と遺品は、老人ホームの最年長者青木六三郎(森繁久弥)の死に別れた家族だった。青木は、「ようやく一緒になれた」と涙を流す。彼らは、源田の意図は、この防空壕を発掘することだったのではないか、と思い至る。