(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

カルメン・マキ @舞浜Club Ikspiari

歳とともに歌声がどう変っていくかについては、ふた通りあるようだ。ひとつは加齢とともに、次第に衰えていく場合。そしてもうひとつは、年々艶やかさが加わり、円熟味を増していく場合。わが敬愛するボーカリストであるカルメン・マキは、後者に属するタイプだろう。OZを率いて、10代の少年たちを煽っていた三十年前の歌声にも凛とした力強さがあったが、近年の彼女のボーカルには、心にしみわたるような豊かさが加わったように思える。
それは、鬼怒無月(g)や勝井祐二(v)という名うてのミュージシャンらと組んだサラマンドラでの音楽活動においても顕著だ。サラマンドラの形に囚われないドラマティックなバンド演奏をバックにしても、彼女の包容力ある豊穣な歌声は非常に映える。というか、彼らのサウンドの要として、堂々たる位置を占めているのだ。ボーカリストとして、これ以上はないだろうというほどの存在感を彼女は誇っている。
さて、そのカルメン・マキが、ご近所である舞浜のライブハウス、クラブ・イクスピアリにやって来た。このクラブ・イクスピアリは、ブルーノート東京のミニ版みたいなところがあって、ゆったりと食事をとりながら、ゆったりとライブを楽しむことができる。しかし、まだ知名度が低いのか、それともハコが大き過ぎるのか、ややもすると会場がすかすかという状態になって、観客としてミュージシャンに申し訳ない気になったりする。
この日の入りも、やはりやや寂しく、わたしは連れとともにちょっと不安な面持ちで前の方の席に陣取った。しかし、空きテーブルが目立つ中で、定刻の7:00を10分くらい過ぎて、演奏がスタートすると、観客の数などどこ吹く風、彼女は熱く真摯な態度で歌い始める。
近年の彼女は、さまざまなアーティストと組んで、ライブ活動に精を出している。わたしが足繁く通っているサラマンドラも、そのひとつなのだが、この日のバックは、ベース(松永孝義)、ギター(桜井芳樹)というシンプルなセットだった。自分の持ち歌に、西岡恭蔵や遠藤ミチローらの曲を交えながら、彼女はアコースティックな演奏をバックに、一曲一曲を丁寧に熱く歌いこんでいく。
1時間弱の第1部が終わり、30分くらいの休憩を挟み第2部。ステージングは前半のペースを引き継いで淡々と進んでいくが、後半のハイライトは、「時には母のない子のように」を歌ったことではないか。さらには、「戦争を知らない」も。穿った見方かもしれぬが、過去へのこだわりを越え、今彼女がここにあるという存在感を見せつける歌いっぷりには、圧倒されっぱなし。最後は、客席にまで降りてきて、すぐ目の前に歌ってくれるサービスがあり、感動した。レベルの高い歌唱力をナチュラルに聴かせる大人の歌手カルメン・マキの技量を見たステージでありました。