(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝砂の上の植物群〟KERA・MAP#003 

久々のシアターアプル。あれ、この劇場って、こんなに座席が小さかったっけ?席の前の通路もすごく狭いし、まわりを見回してみると、劇場内も大分老朽化している。まさか、これってセットじゃないよね。
さて、NODA・MAPならぬKERA・MAPである。冒頭に、先日の「走れメルス」のパロディ(?)のような場面があって、飛行機が墜落し、折りからの戦争の勃発で帰国が出来なくなった乗客たちが、南の島で集団生活を送らざるをえないことになった顛末が語られる。生き残ったのは、スチュワーデスのユカ(常盤貴子)をはじめとする9人。彼らは、怪しい現地駐在のミマツ(渡辺いっけい)というジャーナリストの世話で、廃墟のような家で暮らし、食料の供給を受けている。
ところが、いつまでたっても帰国のメドはたたない。ミマツによれば、日本では大地震が発生し、テロが激化しているという。そんな中、事故で片腕を失ったアカイシ(赤堀雅秋)は、火傷を負った恋人のナナ(猫背椿)を裏切り、ユカの友人のレイコ(西尾まり)にちょっかいを出している。一方、彼らをとりまく人々も、思い思いにそれぞれの価値観で行動している。殺虫剤のセールスマンを自称し、やがて探偵であるとの正体を明かすケンタロウ(山本浩司)、狂気と正気を往き来する富豪の未亡人ボウゾノ(池谷のぶえ)、事故で相方を失った漫才師のヨドム(温水洋一)、殺人の過去がちらつくグラフィックデザイナーのコウジ(筒井道隆)などなど。やがて、ストレスからくる緊張感の高まりの中、乗客のひとりがアカイシに殺され、危うい均衡を保っていた彼ら烏合の衆のコミュニティは、崩壊を始める。
小さな休憩を挟んで3時間という上演時間を長いと感じるかどうかが、この芝居を楽しめるかどうかの境い目かもしれない。未来からやってきたと語るマリィ(つぐみ)の登場や、コウジにしか見えない宇宙人の存在など、これはもうケラしか描けない不条理で、説明のつかないナンセンスでシリアスな世界が、延々と繰り広げられるからだ。
勿論、切れのいいギャグを随所に差し挟むケラお得意のくすぐりはあるのだが、シュールとしかいいようのない展開と、時おり訪れる緊張感の高まりの落差が、観客を不安に陥れる。とりわけ、後半の暴走は、結末の予測をまったく許さない、悪夢のジェットコースターとも呼ぶべき乗りだ。そこはかとない終末観が支配する中、唐突に訪れるクライマックス(いや、アンチクライマックスというべきか)は、正直あっけにとられるが、その余韻は悪くない。
役者陣では、全体を渡辺いっけい温水洋一がしっかり締めており、常盤貴子ら他の役者たちをひきたてている印象。THE SHAMPOO HATからの赤堀雅秋が、微妙な狂気を演じ、異彩を放っていた。ただし、筒井道隆のデクノボウな存在感は不発。集客力はあっても、あれでは芝居好きの眼鏡には到底叶わないのではないか。
■データ
ソワレ/新宿シアターアプル