(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

ルーシェル:関西Session Rock☆To RockII@SITE KOBE

ルーシェル(Lushel)のライブには、過去に3度立ち会っている。最初は、渋谷のラママでのプログレ・イベントで、ジョイントはロマネスク・シンドロームというメタル系のバンドと剣の舞ではなかったか。その次に見たのが、目黒の鹿鳴館で、対バンは無名時代のARS NOVAだった。(ただし、この時はメンバーのアクシデントで彼女たちは演奏できなかった)そして、最後に観たのが渋谷エッグマンでのこと。
記憶が定かではないが、エッグマンのライブは、確かレコ発のライブではなかったと思う。カセット作品を除けば彼ら唯一のアルバム「 Across the Infansy」の発売を記念してのステージだった。しかし、この時のライブは、一部メンバーチェンジがあったりで、それまで2度の感動的で華やかなルーシェルの演奏はなかった。ギターの音から繊細さが後退し、その日演奏された新アルバムの曲からは、かつての濃厚なロマンチシズムは感じられなかった。ホームグラウンドの名古屋から東京への遠征も、そのあたりを境に、途絶えてしまったように記憶している。
当時のルーシェルのサウンドは、典型的なプログレハードと呼ぶべきもので、言わずもがなノヴェラをお手本にしたものだった。しかし、彼らの最大の特徴は、歌メロの良さで、初期のナンバーは適度のポップさに、プログレ特有の緩急が加わって、やや甘口ではあったが、印象的な曲がずらりと揃っていた。
今でも忘れられないのは、ギターを担当していた鬼頭(Lip)の奔放かつ自在なプレーで、ラママ鹿鳴館と着実にルーシェルのサウンドを進化させていた。やたらミスタッチが目立つがいい曲を書くキーボードの原(Harabow)と鬼頭の大胆かつセンスのあるギターが、当時のルーシェルの根幹を支えていたことは間違いない。個人的に、秘蔵のライブテープ(鹿鳴館)とカセットアルバムの「奇跡の城」は、いまだに聴き飽きることのないわが心のヘビーローテイションとなっている。
さて、そのルーシェルがシーンから姿を消して17年。まさかの再結成が、このゴールデン・ウィークになんと神戸で実現した。これには、正直驚かされた。まさに晴天の霹靂、当時からのプログレファンにとっては奇跡と呼ぶに相応しい出来事といっていいだろう。インターネットに突如出現したバンドのホームページで偶然そのアナウンスを見つけるや、何はさておき神戸に駆けつけることを決意したことは言うまでもない。
当日は〝関西Session Rock☆To RockII〟というイベントで、ルーシェルの出演は、やはりその中でも目玉だったようだ。彼らの出番は午後1時にスタートしたライブのトリで、午後8時くらいに幕があがった。曲の良さに加えて、ルーシェルのもうひとつの売りである廣瀬(kojiroh)のハイトーンボイスも健在で、1曲めの出だしこそちょっと声が出ずに心配されたが、曲を追うごとに往年の自信と輝きをその歌声に取り戻していった。他のメンバーの演奏も、長いバンドのブランクからくるぎこちなさは正直あったが、楽曲の魅力は色褪せることなく客席に十分伝わってきたといっていいだろう。
演奏時間はアンコールを入れて、ほぼ一時間。歴代のキーボードが参加できなかったのがとても残念だったが、わたしの贔屓の鬼頭もアンコールで1曲、独特のギターで参加してくれて、黄金期のルーシェルを再現してくれたのが嬉しい。曲目的にもいい時代の曲を揃えてくれて、まさにベスト・オブ・ルーシェルという内容だった。
結局、新幹線の終電に間に合わず、三ノ宮のクアハウスに一泊するハメとなってしまったが、実にいいライブに立ち会えたと思う。願わくは、過去の音源のリリースと、東京でのライブを実現してほしいところだ。
往年のバンドの再結成は、ややもすると同窓会的な集まりで終わってしまうことが多い。もちろん、それはそれでファンもミュージシャンも十分楽しいのだが、ルーシェルのサウンドの魅力を久しぶりに体験し、それが一夜限りの復活に終わってしまうのが、非常に惜しいものに思えてきた。真の復活を祈りたい。それが、第一期ギターのRipが復帰したスタイルでのものになるならば、最高なのだが。

(セットリスト)
1)Utopia 2)旋律 3)時流のかけら 4)奇跡の城 5)プロローグ 6)廃落のフィナーレ アンコール〜時流のかけら

(当日のメンバー)
廣瀬 正之 Kojiroh(V)、本橋 厚 Phill(D)、宮崎 哲郎 Lemmy(B)、加藤 巌 Nohra(G)、松井 博樹(K)、鬼頭 満Lip(G)
※松井はサポートメンバー、鬼頭はアンコールのみ参加