(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝荒神〜AraJinn〜〟SHINKANSEN☆NEXUS

荒神」と書いて「アラジン」と読む。そう、新感線の新しい芝居は、「アラビアンナイト」の「アラジンと魔法のランプ」にインスパイアされたものとおぼしい。先の帝国劇場「SHIROH」好評の追い風を受けての青山劇場の舞台である。
観客席の客層がどうもいつもと違うなと思ってたら、V6の森田剛が主役を張るということで、ジャニーズ系のファンがどっと押し寄せているらしい。ほかに、TVや蜷川の芝居でお馴染みの山口紗弥加が客演。わたしが観た日は、ジャニーズの松岡なんとかというアイドルも客席に来ていたようで、なんだかいつもと違う緊張感の中、舞台の幕があがる。
蓬莱という国での出来事。城を追われた新九郎(河野まさと)とつなで(山口紗弥加)の兄妹は、海辺で奇妙なランプを拾う。そこから現れたランプの精ジンは、彼らをクライアントとしてなんでも願い事をかなえてくれるという。新九郎は、昔暮らしていた蓬莱城に戻りたいと願うが、城には主君を裏切った風賀風左衛門(田辺誠一)と剣風刃(川原正嗣)が担ぎ上げた新しい城主が腰を据えている。
ところが、ジンは魔物界のルール違反をおかしたということで、魔界警察の手配を受けていた。捜査官のドン・ボラー(橋本じゅん)が現れ、ジンは大事なポイントカードを取り上げられる。その直後、ボラーは風賀風左衛門と剣風刃の手に落ち、城主に取りこまれてしまう。一方、新九郎とつなでは、彼らの育ての親である疼木餅兵衛(逆木圭一郎)のもとで、ジンを交えて城を攻略する算段を練り、勇んで城へと向かう。ところが風左衛門は、狡猾な罠を仕掛けて彼らを待ちうけていた。
善戦しているとはいうものの、やはり森田に主役は荷が重すぎたという印象だ。肝心の場面で華が感じられないのは致命的ともいえる。それは、山口にも言えることで、動きは達者なのに、どうにも騒々しさのみが表に出てしまう。その結果、メリハリの感じられない凡庸な物語展開となってしまったのは否めない。それを補うかのように、中島かずきいのうえひでのりのコンビは、二段構えの作劇や、悪役の屈折した心情などを描いてみせるが、主役級の力不足を補うには至っていない。
しかし、皮肉なことにそれが却って、新感線の役者たちの見せ場を作っていることも事実で、橋本じゅんを始めとするお馴染みの面々が、いつも以上に元気な活躍を見せる。古くからの新感線ファンには、嬉しい誤算だったに違いない。特筆すべきは、風賀風左衛門役の田辺誠一で、彼の存在感ある悪役ぶりが、舞台を引き締めている。悪辣な役柄と同時に更紗姫(緒川たまき)への一途な思いも切なく演じ、彼の好演がなければ、この舞台は成り立たなかったかもしれない、と思えるほどの活躍だ。
しかし、全体としては2時間という彼らにしては短い上演時間が非常に長く感じられる。かえずがえすも、主役級の力不足が残念でならない。
■データ
ソワレ/青山劇場