(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ラバトリアル〟双数姉妹

双数姉妹の舞台に接するのは初めてのことである。彼らのルーツは早稲田大学の劇研だそうだが、大隈講堂の裏のテント時代とはメンバーも相当入れ替わっているようで、わが贔屓の野口かおる嬢も、当時は名を連ねてなかったというから、ここに来るまでは相当の紆余曲折があったのかもしれない。しかし、満員のシアタートップスで10日間の芝居をうてるようになった現在も、彼らの芝居にはどこか、大学の演劇サークルの青臭く、懐かしい香りがする。いや、これは決して悪口ではないのだが。
舞台上にはトイレのセットで、正面に男性用の小便器が3つ、その横には個室が2つ並んでいる。掃除のおばさん(野口かおる)が清掃をしていると、気弱そうな男ノムラ(今林久弥)がひとり逃げ込んできて、個室に閉じこもってしまう。それを追うようにやってきた二人組。ヤギサワ(小林至)とフルイド(佐藤拓之)は、TV局のプロデューサーとディレクターだった。どうやらノムラは、原稿が出来ない脚本家で、ヤギサワとフルイドは、なんとか書き上げるようにと脚本家を宥めすかして出て行く。
昔から公演日ぎりぎりまで本を書き上げることができない脚本家だったノムラには、かつて小さな劇団の座付作家だった時代に、台本の内容をめぐり劇団の女優マサメ(帯金ゆかり)を追い詰めてしまった苦い思い出があった。一方、掃除のおばさんにも、やはり脚本家だった恋人を失った過去があった。舞台は、個室に閉じこもることになったおばさんとノムラのやりとりから、ふたりの昔話が再現され、やがてそれが現在の物語とシンクロしていく。
青臭く、懐かしい、と書いたのは、本作のメインとなっている劇中劇という手法で、エチュードがどうのこうのという話が出てきて、これではあまりに内輪話的過ぎるだろう、と思わせておきながら、作中作の微妙な面白さで観客はぐいぐい引き込まれていく。とりわけ、作中作のヒロインであるマサメを演じる帯金ゆかり(北京蝶々)の未熟ながらもエネルギッシュな動きが、物語の活力のようなものを生み出している。
若手の活躍に負けず、劇団側の役者たちも素晴らしい。野口かおるの掃除のおばさんぶりも当然のことながら達者で、過去を振り返り、自殺した恋人のエピソードを回想するシーンは、実に泣かせる。狂言回しともいうべきヤギサワとフルイドの個性的な芝居も、コミカルかつリアルで緊張感をとぎれさせない。3つのストーリーが並行し、時に交わる構成も、演劇らしい興奮を醸し出している。いい舞台だと思う。
■データ
マチネ/新宿THEATER/TOPS