(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝なにわバタフライ〟パルコプロデュース

一部NHKの大河ドラマと並行しての作業だったのだろうか、「新撰組」の幕切れとダブりながらスタートした三谷幸喜の新作である。会場は、東京サンシャインボーイズを休業して以来、三谷芝居の常小屋となっているパルコ劇場で、『出口なし!』、『君となら』、『巌流島』など、それほど作者にご執心でもないわたしでも、結構、足を運んでいる。
今回の書下ろし『なにわバタフライ』は、ミヤコ蝶々の半生(本人はとっくに故人だが)を描いたもので、戸田恵子がひとり芝居を演じる。戸田恵子は演劇好きなら知らぬ者のない芸達者な女優で、三谷の『オケピ』などの舞台も踏んでおり、映画『ラヂオの時間』では日本アカデミー賞の助演女優賞を受賞している。
全一幕で、場面はミヤコ蝶々の楽屋(あるいは自宅)という設定である。彼女についての本を出版するという企画が持ちあがり、若手の編集者が晩年の彼女を訪ねてくるという物語だ。子どもの頃に父親に連れられて行った寄席がきっかけとなり、芸人人生を歩むこととなった自身の半生記について、主人公はまるで問わず語りのように、時代を追って語っていく。
戸田のミヤコ蝶々役は、期待に違わぬ出来映えで、役作りもほぼ満点。時に、彼女自身の顔が別人に見えるような役への入り込みを見せたりもする。芸人として、そして女としての成長を、男性との関係の機微を通じて、木目細かに演じていく。舞台のあちこちに配置された小道具をうまく使って、さまざまな時代の主人公を演じ分けていく、という趣向も成功している。
とまぁ、それだけでも十分に見ごたえある芝居なのだが、終盤間近になって、にわかに緊張感が高まり、それと同時に作者のある企みが浮上する。これには、心底感心した。ひとり芝居という形式を、ここまで見事に生かした本も珍しいのではないか。三谷の才人ぶりには、改めて驚かされた思いだ。幕切れ間近のサプライスで、幕が降りてからのカタルシスも格別なものとなった。マリンバの生演奏を活かした舞台音楽も、いい味を出していたと思う。