(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「夜の来訪者」シス・カンパニー公演/紀伊國屋書店提携

段田安則が初演出に挑むJ・B・プリーストリーの翻訳ミステリ劇(原作は岩波文庫所収)。一説に本邦での初演は60年前とのことで、最近もちょくちょくあちこちで上演されていて、わたしも10年以上も前になるけど、天王洲アイルの当時アートスフィアで渡瀬恒彦主演のやつを観ている。なんでも、段田は昔観たこの作品が強く印象に残っていたそうで、今回はその時にならって、舞台を日本に移しての翻案バージョンでの上演となったようだ。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)
実業家で富豪の秋吉(高橋克実)の邸宅では、娘千沙子(坂井真紀)の許婚(岡本健一)を交えての晩餐を終え、妻の和枝(渡辺えり)やひとり息子の兼郎(八嶋智人)ら一家は、居間で食後のひとときを楽しんでいる。そこに、ひとりの警察官(段田安則)が訪ねてくる。彼は携えてきたのは、ひとりの女の訃報だった。彼女は、誰に看取られることもなく、孤独に病院で息をひきとったという。怪訝な表情を浮かべる一堂だったが、やがて警察官の訊問にも似た問い掛けで、仮面を剥ぎ取るように、ひとりひとりの秘密が暴かれていく。
劇中で、女中役の梅沢昌代がちあきなおみの「喝采」を鼻歌で歌う場面があるので、おそらく時代設定は東京オリンピック大阪万博を終えた高度成長期もおしまいの頃なのだろう。娘役の坂井の衣装など、なるほどその時代を思わせるが、舞台装置の屋敷の居間や、秋吉夫妻が和装であることなどから、微妙なタイムラグがあるようにも思える。そもそもプリーストリーの戯曲が40年代の代物なのだから、やむをえないことなのだろうが、時代設定をもっと遡った方が自然な翻案になったように思える。
段田の演出は、よくいえば堅実、穿った見方をすれば凡庸で、舞台の出来映えは役者の技量にかかってくるのだけれど、さすがはオールスターのキャスティング、芸達者が揃っていて、見応え十分の仕上がりになっている。ただし、幕間を挟んで、同じシーンを繰り返すなどのサービスは余計だし、役者の一部が上手さに溺れる場面(台詞の先読み)などもあったのが惜しまれる。(休憩10分をはさんで125分)

■データ
長期公演なのでロビーの花輪もそろそろ傷み気味のマチネ/新宿・紀伊國屋ホール
2・14〜3・15
作/J・B・プリーストリー(「インスぺクター・コールズ」) 翻案/内村直也 演出/段田安則
出演/段田安則岡本健一、坂井真紀、八嶋智人カムカムミニキーナ)、高橋克実、梅沢昌代、渡辺えり(オフィス3○○)