(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「PW Prisoner of War」演劇企画集団THE・ガジラ2009年3月公演

作・演出の鐘下辰男がガジラをスタートさせたのは、87年のこと。お芝居を観始めた頃とほぼ一致し、彼らが積極的な公演を重ね、世間の評価を高めていった時期を、わたしはリアルタイムで経験している。しかし、評判を耳にしながら一度も観にいかなかったのは、どことなく肌合いの違いのようなものを感じていたからだと思う。
いや、肌合いの違いなんて偉そうな言い方は、ちょっとズルイぞ、自分。正直に、食わず嫌いと言わねば。で、今回20年目になって、やっと足を運んでみる気になったのも、実は豪華な客演陣につられてのことだ。

昭和21年8月、港で女性の水死体が発見された。殺害容疑で逮捕されたのは敗戦直後のフィリピンで捕虜となった過去をもつ男いわゆるPWだった。他殺か自殺か、彼を執拗にまで追い詰める刑事。そして男の過去が次々と暴かれてゆく・・・。『PW』とはPRISONER OF WARの略であり、戦争による囚人・俘虜(捕虜)という意味。当時の日本軍人にとっては、生き恥の象徴であった。(「シアターガイド」のサイトより抜粋引用)

とはいえ、やはりわたしにとってのガジラのお芝居は、想像していたものとそうかけ離れてはいなかった。ひとくちで言ってしまえばアナクロだ。掲げるテーマは真摯だが、わたしにはちょっと真正面過ぎて恥ずかしくも思えるし、痛々しくも感じる。やたら舞台上で繰り広げられる喧嘩のドタンバタンも、やけにわざとらしくうつる。
男芝居の空気が支配的なのにもかかわらず、しかし実は今回の主役は逆境の中を泳ぐように生きている娼婦のヒロインだろう。戦地での悲惨な体験を引き摺る男を暖かく迎え入れる彼女だが、きれいごとばかりを並べる男の言い草にやがて飽き飽きし、男のナルシスティックなエゴを正面から粉砕してみせる。そんな優しさとしたたかさを兼ね備えた生命力のあるヒロインを、ナイロンの松永玲子が抜群の存在感で演じる。
ただ、がっかりしたのは、そのヒロインが背負わされる数奇な運命だ。彼女の辿る道をああ描いてしまっては、生をめぐって男の価値観と女の価値観のぶつかり合うこの物語のハイライトの高揚を、滅殺してしまうのではないか。観る者に持って行き場のない怒りを抱かせるのが狙いかもしれないが、男のエゴを押し通したように思えてしまい、わたしには後味が悪かった。
役者では松永玲子と渡り合う復員者を演じる寺十吾も、いつもどおりの迫真の芝居を見せてくれているが、町田マリーは精彩を欠いている。ホームグラウンドでは華のある演技にいつも感心させられるのだが、客演では実力を発揮しきれないジレンマを今回も感じた。(130分)

■データ
空席の目立つ客席から終演間近にはすすり泣きが聞こえてきた初日ソワレ/下北沢本多劇場
3・6〜3・15
作・演出/鐘下辰男
出演/寺十吾(tsumazuki no ishi)、うじきつよし松永玲子(ナイロン100℃)、町田マリー(毛皮族)、小野健太郎(Studio Life)、斎藤歩、宮島健、塩野谷正幸、小田豊、仁科貴