(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「真説・多い日も安心」柿喰う客第14回公演

つかこうへい直系とでも言いたくなるようなマシンガンを思わせる台詞回しが強力な柿喰う客。ここのところ、上り坂を全力疾走で駆け上がる勢いで公演をうってきた彼らにとって、ひとつの到達点になるのではないかと個人的に決めつけている吉祥寺シアター進出。(ちなみに、今後しばらく本公演はない)3年前に、桜美林大学の春の演劇祭GALAObirin 2005で上演された作品の再演作とのこと。
AVビジネスで天下統一を図ったとある国家のお話し。ソフト秦デマンド帝国の王たるサラサーティ(深谷由梨香)は、AVで国を興し、繁栄へと導く大望を抱く女帝だった。始皇帝を名乗る彼女は、重臣のガナリ(玉置玲央)とセデス(七味まゆ味)を従え、人気ナンバーワンのAV女優として業界に君臨し、政権を磐石のものとするため、さまざまな政策を打ち出していく。
海外からのAV流入を防ぐ鎖国政策やライバルのAV女優を捕らえて葬り去ることなど朝飯前。自らの出演作のリリースを、極限まで増やすなどという無茶もやる。そしてついには、そこで、AVをテーマにしたオリンピックを開催してしまう。しかし、そこまでやっても、やがて政権の勢いにも翳りが見えてきて。
出てくる、出てくる、役者が38人。それだけの人数が、入れ替わり登場してくる賑やかさに圧倒されるが、めくるめく展開の物語の方も、とにかくめまぐるしい。つまり、お馴染み柿喰う客の本領である。三国志とAV業界の歴史と情報を踏まえたごった煮的な展開は、持ち味のスピード感とあいまって、観客をも熱気の坩堝へと巻き込んでいく。
評価できるのは、後半に雪崩れ込んでいく神との戦いというアイデアの新機軸(おそらくは初演時には、なかったのではないかと思う)だろう。そこまでの展開から頭ひとつ突き破るステップボードになっているし、サラサーテのキメの長台詞(深谷由梨香が素晴らしい)に繋がっていく。また前回に引き続いてとなるが、こゆび侍から客演の佐藤みゆきの好演を引き出していることもポイント高し。
しかし、フェミニズムを超越したかのような世界観(つまり、AV業界以外の女性を置き去りにしたような)は措いておくにしても、勢いだけで成り立っている本作を、現時点での成果というのはちょっと。吉祥寺シアターの広い空間を制圧してしまう今の劇団の充実は評価できるが、ちょっと欲張りを承知でいえば、もう一歩、これまでの成果を踏み越えてくるものも見せてほしかったというのが正直なところだ。

ともあれ、ひとつのマイルストンは刻まれたと思う。しばし元気な彼らを観られないのは残念だが、期待に胸を膨らませて一年後の本公演を待つとしよう。(110分)

■データ
しかし多い日特典っていったい…、の二日目ソワレ/吉祥寺シアター
8・21〜8・31
作・演出/中屋敷法仁
出演/高木エルム、七味まゆ味、玉置玲央、半澤敦史、深谷由梨香、佐藤みゆき(こゆび侍)、中林舞(快快)、浅見臣樹、浅利ねこ(劇団銀石)、伊佐美由紀、石黒淳士、石橋宙男、伊藤淳二、今永大樹、大石憲、小川貴大(ハイベビ)、加藤諒、川村紗也、斉藤マッチュ(劇団銀石)、佐野功、佐野木雄太(劇団銀石)、色城絶(エビビモpro.)、須貝英(箱庭円舞曲)、高橋戦車、出来本泰史(劇団SevenStars)、永島敬三、野上真友美、野田裕貴、迫律聖、花戸祐介、舞香、松本隆志(Mrs.fictions)、丸山紘毅、武藤心平(7%竹)、村上俊哉、村上誠基、八木菜々花、矢鋪あい