(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「まどろみ」M&O Plays プロデュース

倉持作品に初出演らしいともさかりえは、「ワンマン・ショー」を観て自分も出てみたい、と思ったそうだ。なるほど。それはおそらく、去年のシアタートラムでの再演だったと思うのだが、あれはわたしも面白かった。PPPPの役者も交えてのプロデュース公演という形はその時と同じ。個性派の役者をずらり揃えての倉持裕新作公演である。
不眠症で、夜には決まって散歩に出るレイジ(近藤公園)。そんな彼を訪ねてきた見知らぬ女(村岡希美)は、彼と一夜を共にしたと頑なに繰り返す。レイジにそんな記憶はなく、一緒に暮らす恋人のトツミ(ともさかりえ)も唖然とするばかり。
レイジとトツミは、やがて新宿ですれ違った男が、レイジと同じ顔の男をしていたことを思い出す。女にも、その男と勘違いしているのではないかと伝え、彼女はその男を探しに出かける。そんなところに、またもや珍客がやってくる。その男日達(玉置孝匡)はゲイのようで、別れた恋人だと思った男をつけてきたところ、この家に入るのを目撃したという。レイジに似た男は実在するのか、それともドッペルゲンガーか。レイジの財産を狙う叔父の秀平(六角精児)を交えて、五人の男女はすれ違いながら迷走していく。
不可解な出来事の裏側には、レイジに対するトツミや秀平の思惑や企みが見え隠れするが、それとて真実かどうかは判然としない。迷宮のような世界は、虚構だとしてもやけにリアルで、その現実感がますます観客を混乱に導く。いつもながらの倉持ワールドなのだが、今回でいえば、舞台が小田急線沿線の線路に近い家という具体な設定が、不思議な現実感をより際立たせている。
インタビューに答えて、コワイ話を意図して書いたと倉持が語るとおり怪談色もあるが、現実と非現実の間で揺れ動く物語は、よりアンビバレントな印象強し。幽霊なのか、二重人格なのか、さまざまな可能性が浮き沈みする曖昧さに、この作者の持ち味がフルに発揮されていると思う。
好みをいえば、シュールで突き抜ける感じが弱かったり、結末にやや収まりの悪さがあるのも、気になるといえば気になる。しかし、役者が揃って達者だし、近くで見るともさかりえの魅力はさすがで、難解さがさほど気になることなく、最後まで楽しむことができた。(110分)

■データ
初めてお邪魔するあうるすぽっと、なかなかいい劇場ですねのソワレ/池袋あうるすぽっと
5・15〜5・25
作・演出/倉持裕
出演/ともさかりえ近藤公園村岡希美、玉置孝匡 六角精児