(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

[演劇]「私、わからぬ」空間ゼリーvol.9

前々作「ゼリーな空間」ではビビッドなハイスクールもの、前作「穢れ知らず」では民話とのシンクロニシティと、手をかえ品をかえながらも、テーマも表現も女性の視点や感性に根ざしたスタイルを突き進む空間ゼリー。旗揚げから5年目の新作である。
リストラされた父に、家でお稽古事を教える母親。子どもたちは、長女(斎藤ナツ子)に次女(岡田あがさ)、長男の三人姉弟。仕事のない父親だが、卑屈になることもなく暖かく家族を見守り、穏やかな両親を中心に一家は仲良く暮らしている。しかしただ一人、家族に馴染めないのが次女のさえ。夜の仕事で酒とタバコに溺れる彼女を気遣う両親と姉弟、しかし些細なことであたりちらすさえは摩擦を起こしてばかり。
長女の一子には、家を出たまま行方知れずとなっている夫がいた。ひとりになってしまった彼女は家に戻り、読者投稿を脚色しコミック化するというマンガ家の仕事をしている。独自のストーリーものも描ける筈とすすめる編集者もいて、自分のことを描けばいい、とアドバイスするが、一子はそれを断り続けている。私生活では行方知れずと夫を捜そうともせず、仕事では殻を破らない。そういう一子を見て、親しい友人も、彼女は波風たてず、今の状況に甘んじることが好きだと思っている。しかし、実は行方不明の夫が、家からそう遠くないところで目撃されていて。
日本家屋のお茶の間を舞台の中心に、庭の桜の木が移り変わる四季を表現する四場プラスワン。家族のことを愛しながら、その愛し方が判らず、ついつい辛くあたってしまう次女役の岡田あがさと、ひたすら穏やかに家族を見つめる長女やく斎藤ナツコの対比が実に見事。次女の家族と和解するくだりは定石といえば定石だが、感情の変化をしっかりと表現する岡田は、それを説得力あるものとしてきっちりと印象付けている。
一方、ややもすると友人からも軽んじられる、おっとりと優しく、落ち着きはらった長女一子の心の内側を一気に明らかにする終盤は、見ごたえがある。一子、夫、そして父親が、それぞれの思いをぶつけ合うこの場面、一子の孤独な思い、そして家族を結ぶ絆の深さに触れた気がして、不覚にも涙がこぼれた。その後の春のシーンは、単なる付け足しだが、ややもするとささくれ立つ余韻を和ませる上手さを感じた。(120分)※13日まで。

■データ
10分押したが、今回お休みの下山夏子の丁寧な席案内が好印象の初日ソワレ/赤坂レッドシアター
4・9〜4・13
作/坪田文 演出/深寅芥
出演/斎藤ナツ子、岡田あがさ、佐藤けいこ、細田喜加、猿田瑛、北川裕子、富永陽子、川嵜美栄子、西田愛李、篁薫、阿部イズム、半田周平、千葉伸吾、大塚秀記、麻生0児(studio salt)、青木英里奈(ハロプロエッグ)