(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

[演劇]「錆花」TOCA*春公演

徒花*からTOCA*に表記を改めての公演。HPによれば、芝居、映像、文章、写真と彼らの活動の範囲は多岐にわたっているが、わたしが知ってる限りでは、演劇公演は昨年の冬公演「嘘を数える」@荻窪旅館西郊以来のはず。
都会から離れたとある田舎町の国道沿いに佇む小さなホテル。窓から見える観覧車は、運転をやめてから久しく、さびれた町の象徴のようになっている。妻は、そもそもホテルを経営する一家の長男と結婚する筈だった。しかし、長男は自殺、なぜかプロポーズしてきた三男と結婚し、ホテル経営を手伝っている妻。
夫婦はここのところ、まったく噛み合わない日々を送っている様子だ。無気力な妻と、なぜか怒りっぽい夫。実は、妻は義兄と浮気をしているのだが、それとて彼女は強引な義兄に引き摺られているだけのこと。ところが、彼女が妊娠したことから、ついに緊張関係の飽和点を越える時がやってくる。
前作が近親相姦、今回が不倫、と書くと、随分と放埓な内容を想像するやもしれぬが、いずれの場合も、それらのテーマありきではなく、そこへ至る経過を丁寧に積み上げていくところにTOCA*の真骨頂がある。傍若無人、自暴自棄が過ぎる三男の態度、ぎくしゃくとしたホテル内の空気を、さまざまな登場人物を通して読み解いていくのだ。
稀に終わらせなければならない愛もある。例えば、相手に死が訪れた時など。個人的には、この物語は、それを終わらせることができなかった女の物語だと思った。しかしその悲劇的な末路を、強引ともいうべき急ハンドルで希望に転化する技は見事。陰から陽に転じる、見事な手さばきのマジックを見る思いだ。気分よく劇場をあとに出来たのがとても貴重なことに思えた。(115分)
■データ
神楽坂商店街の人通りもやや寂しい土曜のソワレ/神楽坂die pratze
4・4〜4・6
作・演出/甲斐博和
出演/石川油、甲斐博和、佐藤もとむ、円谷久美子、黒田佳奈、渡辺さおり、門田純(背番号零)、布川恵太、佐藤祐香