(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「火の鳥にキス」ピンズ・ログ第4回公演

年1回の公演というのは、作る側の誠実さは理解できるものの、待つ身にとってはいささかつらい。作・演出の平林亜季子のプロデュースユニット、ピンズ・ログもそれで、昨年の1月の公演から1年と1か月ぶり。わたしは、御伽噺のような前回の「原形質・印象」しか観ておらず、得意であるというドロドロした人間関係のドラマが見られるのではないかと期待して足を運ぶ第4回公演である。
鄙びた田舎温泉の古い旅館清明荘。この旅館を親から継いでまだ間もない主人の啓輔(石塚義高)を訪ねて、高校時代のクラスメート、美由紀(二木奈緒)と千尋(高木珠里)がやってきた。彼女たちは卒業後、コンビでマンガ家としてデビューし、一躍売れっ子になった。しかし、ここのところ新連載が二度も続けて打ち切りとなり、かつての人気は翳り気味。今回の旅行の目的は、彼女たちが使っているアシスタントたちの慰労が目的だという。
三人のアシスタントを引き連れ、清明荘に着いた美由紀。しかし少し遅れてやってきた千尋は、啓輔の妹で、地元の雑誌社に勤める里美(竹原千恵)と約束していたインタビューを途中ですっぽかしてしまう。一方、美由紀もなにやら悩み事がある様子で、かつて自分に憧れていた啓輔に頼るそぶりをみせ、何やら伝えたい様子。翌日、啓輔は母校を見たいという美由紀を送り届けて戻ってくるが、彼女は滝の付近で行方不明になり、大騒ぎになる。
実は上記以外にも、啓輔は元クラスメートの綾子と結婚したばかりで、間もなく赤ん坊が誕生すること、遅れてやってきた千尋は元恋人で編集者の永井を連れてきたこと、清明荘を手伝っている啓輔の叔母恵美子には隠された離婚の理由があること、登場人物をめぐる人間関係は実に精緻に編み上げられている。他にも、東京でホストをやっていた啓輔の友人克也と理容室の娘良江の恋愛関係や、三人のアシスタントたちの中にもそれぞれの思惑と複雑な思いがあったりと、いくつもの小さなドラマが行き交いながら進行していく。
登場人物が多い割にひとりひとりがしっかりと描き分けられていることもあって、物語の足取りはしっかりしている。大きな曲がり角にさしかかったマンガ家コンビの葛藤をめぐり、実に見ごたえのあるドラマが展開されていく。やがて、美由紀と千尋の関係がほぐれ、ふたりの今後を暗示する結末は、ハッピーエンドの中にも辛口のスパイスが効いていて、心にしみる。
新劇という言葉が思い浮かぶほどケレンのない舞台だが、シーンとシーンの繋ぎ目に、登場人物たちのモノローグで挟む手法が使われていて新鮮。ただし、これは露骨に役者の力量の差が出てしまうことで、痛し痒しと言えないこともないのだが。(120分)※3月3日まで。

■データ
静かな高木珠里が舞台の空気を引き締めていた満員御礼のソワレ/中野劇場MOMO
2・26〜3・3
作・演出/平林亜季子
出演/青木十三雄(ヒューマンスカイ)、石塚義高、川崎桜、古賀裕之、小島幸子(マウスプロモーション)、迫田圭司、高木珠里(劇団宝船)、竹原千恵(散歩道楽)、寺田未来、二木奈緒、真下かおる(くねくねし)、森口美樹(ロスリスバーガー)、森脇由紀(青年座)