(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「もやしの唄」ハイリンド第5回公演

「どの世代が見ても面白い、質の高い作品を発信し続ける」ことを看板に掲げるハイリンド。この加藤健一事務所俳優教室の卒業生たちによるこの四人組のユニットの公演は、過去に「法王庁の避妊法」を観ているけど、なるほど看板に偽りなし。第5回公演にあたる今回は、岸田賞ノミネート作家小川未伶の作品を、春芳(安藤亮子!)の演出で。
次々と家庭電化製品が世に出て、世の中が急速に変わりつつあった高度成長期。機械化の波が押し寄せる中、ひたすら手間がかかる昔ながらの生育法で、もやしの生産に精を出す男がいた。彼、泉恵五郎は妻に先立たれ、息子を男手ひとつで育てながら、弟と妹も養っている。たまに、近所に住む亡妻の母親が夕食を作りに来てくれたり、昔働いていた老人がふらりと寄ったりと、泉一家はいつも賑やかだ。
そんな恵五郎を手伝うことになったのは、父親とそりが合わずに家を飛び出してきた青年の村松。彼は、夜も昼もない忙しさに音をあげそうになるが、近所のラーメン屋で働く少女の励ましもあって、次第に仕事にも慣れていく。一方、少女は密かに恵五郎に思いを寄せるが、妻の七回忌が過ぎたあるとき、啓五郎に見合い話が持ち上がる。
時代が大きな曲がり角にさしかかり、変化の荒波に押し寄せる中、実直な兄を中心に生きる市井の一家を描いた作品だ。物語中で過ぎる時間は、1か月間くらいだろう。しかし、その短い中には別れの物語もあれば、成長の物語もある。登場人物たちが織り成す悲喜こもごものさまざまな人間模様が、濃やかに描かれていく。短いシーンだが、過去のエピソードが二箇所ほど挿入されていて、物語の奥行きを広げる効果をあげている。
(以下、ネタバレです)意表をつかれ、感動をおぼえたのは、ラストにある十五年後のシーン。時間の経過は幕切れのために用意された定石的な手法と思っているところに、物語全体に別の視点から光をあてる台詞が、ある人物からぽつりと囁かれる。作者のこの時代への思いが単なるノスタルジーに留まらない複雑な思いであることが伝わってくるこの一言。スパイシーで鮮やかな締めくくりだ。
先に観た永井愛の「時の物置」のテーマと通底するものを感じるが、永井作の濃い口の味付けと比較すると、小川作は淡々としていながら自然と滲み出る滋味がある。三役を演じる枝元萌の配役も見事。
次回は、小さめの劇場でデイビッド・オーバーン作の翻訳劇にチャレンジするとのことで、興味津々だ。(110分)※3月2日まで。

■データ
後部座席二列が空席とは、なんとももったいない充実の初日ソワレ/新宿シアタートップス
2・27〜3・2
作/小川未玲  演出/春芳(劇工房 月ともぐら)
出演/伊原農、枝元萌、多根周作、はざまみゆき、石原竜也(P☆M☆C)、仁田原早苗(Playing unit 4989)、辻親八