(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「死ぬまでの短い時間」M&O Plays プロデュース

見渡す限り、女性、女性、女性の観客席。年齢層はさまざまだけれど、とにかく女性だらけ。凄い人気だなぁ、北村一輝田中圭(ですよね?)。秋山&内田の美女コンビお目当ての男性客は、ほぼわたしひとりという状態のベニサンピットである。
自殺の名所として知られる断崖に、客を運ぶことで知られるタクシーの運転手のシミズ(北村一輝)。彼の日々はやさぐれ、これから死のうという女たちから、金品を巻き上げたりもしている。その日、最寄の駅前でシミズのタクシーを拾ったフタバ(秋山菜津子)も、崖っぷちまで、と行き先を告げた。しかし、断崖を前になぜか運転手と女はやりあった挙句、彼女は翌朝、シミズの部屋のベッドで目を覚ますことに。
作・演出の岩松了は、アキ・カウリスマキの「マッチ工場の少女」の後日談をイメージしたという。不幸にしてわたしはその映画を観ていないが、映画の評判とは裏腹に、負の人生を背負った五人の登場人物たちが、粘着質な物語を繰り広がるひたすら暗鬱なドラマである。
二人のほかに、水商売風の踊り子ミヤマ(内田慈)と金持ちのおぼっちゃんドイ(古澤裕介)のカップルが登場し、ミヤマはドイをナイフで刺し殺してしまう。ドイは幽霊となるが、何故かシミズを慕うコースケ(田中圭)と親友になって、この世をさ迷う。
混沌とした物語の果てに、シミズが新しい生き方を見出そうとするあたりに、本来この作品本来のカタルシスがあるのだろうが、そこに到達するまでの紆余曲折が、暗くてわかりにくいこともあって、感情移入がまったくできず。そのため、物語の着地点に素直に感動できないうらみがある。むしろ、断片的であるが、生と死の曖昧な境界線の上で秋山が演じるヒロインの孤独や、古澤が本領を発揮する毒のあるキャラクターに、旨みを感じた。贔屓の内田慈は、今回残念ながら、役に恵まれなかった。残念。
しかし、音楽劇としても中途半端。単に劇伴を生演奏でやってみました、という程度のバンドの使い方で、音楽劇と謳うのはちょっとどうかと思う。出演者で唯一歌った秋山のソロには、さすがに華があっていいと思ったが。(120分)※東京公演は30日まで。その後、大阪公演あり。

■データ
観客席後方の脇通路にひょいと出てきた秋山菜津子にびっくりしたマチネ/森下ベニサンピット
12・4〜12・30(東京公演)
作・演出/岩松了
出演/北村一輝秋山菜津子田中圭、古澤裕介(ゴキブリコンビナート)、内田慈
演奏/トリティック・テヘダス