(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「監視カメラが忘れたアリア」虚構の劇団 旗揚げ準備公演

自身のプロデュースユニットKOKAMI@networkがありながら、新劇団の立ち上げっていったい?そんな素朴な疑問を抱きながらも、期待せずにはおれないのが、第三舞台の(オールド)ファンの人情ってもんで、わたしもそのひとり。でも、第三舞台の休眠中に別の劇団をスタートさせるからにはその必然性のようなものを問うてみたい気持ちもちょっとある。そんな鴻上尚史の新劇団旗揚げ準備公演である。
渋谷警察に勤務する警察官の姫岡(山崎雄介)は、管内に設置された街頭監視カメラのチェックがその日々の仕事だ。ある日、モニターの中に結婚を目前に控えた恋人の文緒(小野川晶)を見つける。しかし、帰宅した妻は、その日渋谷には行っていないという。姫岡の中で怪訝な思いは、やがて彼女への不信感に変っていく。
そんな姫岡は、友人の長谷川(渡辺芳博)からマップ作成のためにカメラの設置場所を教えてほしいと頼まれる。長谷川と姫岡は「監視カメラを監視する会」というサークル活動を大学でやっていた仲間で、長谷川は今も留年しながら会を続けている。当時とは180度立場の違う姫岡は拒絶するが、長谷川との接触が不審な行動だと上司から謹慎処分を受け、私生活では文緒との亀裂が深刻な事態に。
かつてロキシーミュージックの「モア・ザン・ジス」が流れていた客入れの時間帯に、若い役者たちは早くも舞台上にいて、笑顔で会話を交わしながらウォームアップを始めている。シンプルな舞台装置、カラフルな衣装、そして元気な役者たちと、何かが起こりそうなドキドキが胸に湧き上がってくる。なるほど、鴻上が若い役者たちと、新しい仕事をやってみたくなった理由にも納得がいく開演前のいい緊張感である。
しかし、幕が開き、物語が進捗していくと、たちまちのうちに強い既視感に捉われしまう。あれ、えっ、これって第三舞台のおさらいではないか、と。もちろん、作・演出が同一人物であるから、ある程度のシンクロはやむなしだと思うが、そのまんまの引用(「天使は瞳を閉じて」からの)が次々飛び出し、役者の演技までもが似ているのは、さすがに白ける。
管理社会に対する反発というテーマが、終盤で反転する面白さで、かろうじて過去の焼き直しの域から半歩脱するものの、しかしリメイクの空気までは払拭できない。そもそも、第三舞台が描いた世界のその後は、第三舞台が描くべきだと思うのだ。
スキルの高いプロダクションや、悪戯に難解に陥らない演出の達者さは、さすがに今の小劇場のレベルを遥かに凌いでいる。役者の中に、面白い人材もいる。このように、新しいことに挑戦する条件は、整っているにもかかわらず、過去の焼き直しを舞台にあげようとする意図は判りかねる。
第三舞台を懐かしんでいるのか、やや平均年齢の高い観客からは、喝采を浴びていて、わたしが観た回は3回ものカーテンコールがあった。だが、わたしは同窓会以上のカタルシスを抱くことは、どうしても出来なかった。来年春の旗揚げ公演には、ぜひともこの劇団でなければ描けない何かを観せてほしいものだと思う。(120分)

■データ
「タイムマシンにお願い」という選曲がすべてを雄弁に物語るマチネ/中野ザ・ポケット
11・29〜12・9
作・演出/鴻上尚史
出演/内海正考、大久保綾乃、小沢道成、小野川晶、佐江木れいみ、杉浦一輝、高橋奈津季、三上陽永、山崎雄介、渡辺芳博