(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「三つの頭と一本の腕」桃唄309

わたしが過去に見た作品からは、ローカルな因習や都市伝説を得意とすることが伺える桃唄309。彼らの新作は、その直球ど真ん中ともいうべき、横溝正史もびっくりの土俗的な田舎ミステリの世界だ。
東京で活動する地方の歴史や伝承を研究するアマチュア・サークル。その仲間のひとりが故郷の福島で不審の死を遂げた。サークルには彼の幼馴染みもいて、彼女に導かれるように、メンバーたちは事件のあった山間の村を訪れることに。
一行を歓迎する村人もあれば、煙たがる者もいる。しかし、彼の死の状況は、警察がいうような行きずりの犯行とは、どうしても思えない。聞き込み調査によって、次第に浮かび上がってくる複雑な血縁関係と、三つの頭と一本の腕の怪物にまつわるフォークロアに託された歴史の裏側。やがて事件当日の彼の足どりから、意外な事実が。
あれよあれよという間に、死んだ仲間をめぐる思い出話から、不思議な言い伝えの残る福島の寒村へと観客を連れていってしまうテンポの良さは、さすがこの劇団。フーダニット(誰が?)、ホワイダニット(何のために?)のさ中に放り出されてしまったわれわれの関心は、ひたすら目を瞠り、耳を澄まして、事件の謎解きへと向かう。
しかし、それだけミステリとしてアトラクティブでありながら、手強さもある。本に例えるならば、重厚で、ペダンチックな作品を読み解く難しさ、とでもいったらいいだろうか。人間関係の複雑さや、事件当日の状況には、舞台の進行を単に追っているだけでは、どうしてもついて行けない部分が残ってしまう。演出に、相当な工夫が凝らされているにもかかわらず、である。
できることなら、全体像を把握したうえで、細部にも注意しながら、二度目を観てみたい気がするが、今回はスケジュール的に無理だった。というわけで、再演のラブコールを早めに送っておきたい。なお、登場人物の過去に焦点を合わせた高校生版も上演された模様だが、そちらは残念ながら未見。(110分)

■データ
贔屓の個性派にうさとみが出てないのが残念至極のソワレ/こまばアゴラ劇場
11・21〜12・2
作・演出/長谷基弘
出演/楠木朝子、吉原清司、森宮なつめ、バビィ、吉田晩秋、山口柚香、佐藤達、貝塚建、國津篤志、ほりすみこ、伊坂亮(東京コメディストアジェイ)、立花あかね(ラ カンパニー アン)、成本千枝