(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「恐れを知らぬ川上音二郎一座」東宝

日比谷にオープンした東宝の新劇場シアタークリエ(芸術座の跡)の杮落としの演目。川上音二郎は、文明開化の明治時代に活躍した芸人・役者で、実在の人物。実際に一座を率いアメリカ公演も行っており、オッペケペー節は今も知られている彼の十八番である。
進取の気質の持ち主、役者の川上音二郎(ユースケ・サンタマリア)は、成功と失敗の繰り返しの人生を歩んできたが、明治32年、妻の貞奴常盤貴子)や劇団員を引き連れ、アメリカへと巡業の旅に出る。しかし、成功したのは最初だけで、信頼していたマネージャーに金を持ち逃げされ、やっとの思いで東海岸のボストンへと辿り着く。
この地でもトラブルに見舞われるが、駐アメリカ大使の小村寿太郎の助力により、一晩だけ大きな劇場を借りられることになった。しかし、よりによって、音二郎が選んだ演目は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」。となりの劇場では、イギリスの名優ヘンリー・アーヴィングが出演する同じ演目をかけている。かくして、一座はひと晩で、和製「ヴェニスの商人」をでっち上げることに。
良くも悪くもオープニング・イベントの賑やかし演目といったところ。正味3時間以上なのに観客を飽かさないのはさすがだし、人情や機微、物語の仕掛けなど、あちこちで名作家の技を見せてくれるのだけれども、今春に上演された傑作「コンフィダント」とは較ぶべくもない。
悪い面を言えば、全体に冗長で、とりわけ前半がひどく、あの内容なら半分で足りると思う。勢いを買っての起用だと思われるユースケ・サンタマリアのやや大味な主役ぶりも、これだけの長さになると観ていて飽きがくる。脇を芸達者で固めた作戦は悪くない(ダブル堺、常盤、戸田、小林らは好演)が、その分、彼らにも見せ場をふらねばならず、全体としてさらに散漫となってしまうジレンマは拭えない。
部分的には、涙や笑いもあるが、三谷幸喜の新作として観にいくと、やや拍子抜けがするだろう。作者も、そのあたりは割り切って作っているように思えた。地下2階というロケーションで、エレベーターと狭い階段で行き来するしかない新しい劇場も、なんか閉塞感があって馴染めない感じがした。(休憩20分を含む200分)

■データ
バルコニー席のあの客いじりには拍手のソワレ/日比谷シアタークリエ
11・10〜12・30
作・演出/三谷幸喜
出演/ユースケ・サンタマリア常盤貴子戸田恵子堺雅人堺正章浅野和之今井朋彦堀内敬子阿南健治小林隆瀬戸カトリーヌ、新納慎也、小原雅人、ベーカー・ウィリアム・ヒュー