(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「陰漏(かげろう)〈画廊版〉」乞局第13回公演

同じ演目を、日程を少しだけずらし、別の場所で公演するという面白い試み。(そもそも再演だが)通常の再演とも違い、先の公演の生々しさを残したまま、場所が変わってどう変化するのかに興味がつのる。演出側も、先行の劇場版とは別物という意識で画廊版に臨んでいる様子で。
物語はまったく同じ(筈)。なくなっているシーンもあるが、劇場版の感想に書いた、自分のあらすじととりあえずそのまま引用しておく。(次の段落すべてが引用)
敷きっぱなしの蒲団と、汚い家財道具。脱ぎ捨てた服のようなものもちらかっているアパートの一室で、弟は暮らしていた。その弟が自殺したと知らせを受けた兄は、警察で死体の検分を終え、妻を伴ってこの自殺現場のアパートにやってきた。やり場のない怒りを、管理人や妻、弟の知人らにぶつける兄。やがて、弟は自殺志願者ばかりを集めた怪しい自己啓発サークルのようなものに属していたことが判る。役所で弟の戸籍が抹消されたことを知った兄は、実は弟はまだ生きているのではないか、と疑い始めるが。
劇場版からの変更点は、おおよそ次のようなところだろうか。家具の配置や畳など弟の部屋のレイアウトが違う、部屋には絵画ともオブジェともつかないアート作品が額縁入りで飾られている、劇場版になかった新しいシーンの追加、劇場版にあったシーンを削除、エピソードの順序を並べ替えている(今回は、ほぼ時系列?)、登場人物(サツバ)のキャラクターを一部手直し、あたりかな。
変更は、必ずしも劇場版の反省を踏まえたものではないようだが(そういう部分もあると思うが)、曖昧なところのある物語に、別の角度から光をあてていたりして、両方を見ると理解度は確実に増すだろう。一方、その結果、違う解釈が生れる余地も生じ、劇場版では激情しか伝わってこなかった兄の心情が前面に出て、兄弟の絆というテーマがより濃いものになっている。
また、自殺事件の鍵を握る繁罵の役どころの重さも確実に増している。弟との絡みや、関係者の間を泳ぎまわって、彼らを煙に幕シーンなどが目立ち、画廊版すなわち繁罵という人物の物語まで、あと一歩のところまで来たような気がする。
ただ、劇場版でもやもやしていた、最後に兄が悟るシーンは、手直しがあった今回も、やはりやや唐突に思えた。あの場の妻の説得にそれほど力があるとは思えないし、兄もそれをすんなり鵜呑みにするようなヤワな人物にも見えないのだが。
どちらをとるかといえば、ちょっと迷うのだが、わたしは画廊版だろうか。狭い会場で臨場感がぐっと増したし、物語の濃度も高まったと思う。しかし、それとて、先行する劇場版があってこそのものだと思うと、今回の試みは大いに評価していいのではないかと思う。(95分)

■データ
終演後、スタッフブログにあった会場向かいのスタバでお茶したマチネ/渋谷ギャラリー・ルデコ5
11・7〜11・11
脚本・演出/下西啓正
出演/秋吉孝倫、竹岡真悟、根津茂尚(あひるなんちゃら)、三橋良平、宮恕W圭史、岩本えり、北村延子(蜻蛉玉)、木引優子(青年団)、墨井鯨子、田上智那、中川知子、下西啓正