(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「性癖優秀」柿喰う客第10回公演

ネット周辺でも、この新作がそこそこいい評価を得ている柿食う客。青山学院大学演劇研究会に所属していた中屋敷法仁が在学中に立ち上げ、2004年に旗揚げ公演を行っている。以降、企画公演を含めると年に5回という、若さなくしては出来ない精力的な活動を展開しており、所属の深谷由梨香は、岩本えりのピンチヒッターとしてポツドールの「人間・失格」に出演、近くsmartballの新作のキャスティングにも名があがっている。わたしは、王子小劇場トリビュートの「俺の屍を越えてゆけ」に出演した玉置玲央がやけに印象に残っており。
晴天の霹靂ともいうべき両親の離婚により、12歳の有之介(伊藤淳二)は母(丸山彩智恵)に引き取られ、実家の田舎町へ越すことになった。到着早々、叔父のまさみつ(本郷剛史)から猟銃を向けられた有之介。そう、十余年前に母親が父(堀越涼)と駆け落ち同然に故郷をあとにしたのには、息子も知らされていない訳があったのだ。
一方町では、折りしも町村合併により、旧住民と新住民の間で、性のモラルをめぐる対立がおきていた。それを背景に、市立のまんなか中学では、斬新な性教育を方針として打ち出し、性教育の専任教師として禁八ちゃん(七味まゆ味)を迎えることになった。そんな混乱の中、転入した有之介は、つばめ(大森茉利子)という少女と仲良くなるが、彼女には、間近に迫った村祭りで、とんでもない役目が待っていた。
総勢29名の役者たちが、大きな動きを伴う台詞回しで、舞台狭しと駆けめぐる。物語に寄り添う展開もあれば、ナンセンスが炸裂する場面もある。この賑やかさは、なんか懐かしいな、と思ったら、遥か昔の新感線がやはりこういう元気な舞台を繰り広げていたことを思い出した。
性教育というテーマに粘着しながら、ドライな展開に徹することができるのは、性というものを大らかに捉えるこの劇団の特性だろう。そういう意味で、セックスを扱いながら性的なスリルはまったくない。個人的に、性をそこまで割り切るのは、さすがに浅薄すぎてつまらなくも思える。
しかし、ごちゃごちゃと動き回る29人のキャラクターが、きちんと描き分けられているのは、評価していいと思う。役者間での競争意識も、いい方向に働いているように思う。そして、しのぎを削る役者たちをきちんとコントロールする脚本、演出の力も注目に値する。生真面目さと誠実さが伝わってくる主宰と役者のアフタートークも好感度が高かった。(110分)

■データ
若い観客(とにかく多い!)の熱気にあてられたソワレ/新宿シアターモリエール
8・29〜9・4
作・演出/中屋敷法仁
出演/高木エルム、七味まゆ味、玉置玲央、コロ、本郷剛史、中屋敷法仁、斗澤康秋、大森茉利子、石橋宙男、目黒茂、石黒淳士、村上誠基、伊藤淳二、本田けい、小西綾香、加藤槙梨子、太田望海、伊佐美由紀、浅見臣樹、出来本泰史、古里美穂、花戸祐介、大石憲、目崎剛、高橋洋平、土井貴之、丸山彩智恵(劇団アルターエゴ)、武藤心平(7%竹)、堀越涼(花組芝居)
舞台監督/佐藤恵 舞台美術/濱崎賢二(青年団) 音響/上野雅(SoundCube) 照明/富山貴之 演出助手/寺田千晶 前園あかり 宣伝/山下浩介 制作/田中沙織