(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「犬顔家の一族の陰謀〜金田真一耕助之介の事件です。ノート」劇団☆新感線2007年 夏休みチャンピオン祭り

懐かしい新感線が帰ってきた。チープな芝居に、こてこてのサービス精神を込め、舞台の上の役者達も思う存分遊んでしまうという路線への久々の回帰。クドカン招請で、大人計画のバッドテイストもほのかに薫るが、脚本と演出は紛うかたなきいのうえひでのりである。
オペラ座の怪人」に出演していた女優が、舞台の上で殺されるプロローグに続いて、話は田舎の旧家犬顔家の屋敷へ。今、まさに巨万の富を築いた犬顔助佐衛門助介翁(橋本じゅん)が、いまわの際にあった。枕元には、太郎子(木野花)、次郎子(高田聖子)、三郎子(山本カナコ)という、それぞれ母親の異なる三人の娘たち。それに、太郎子の娘の柴子(村木よし子)。次郎子の婿ロベール(古田新太)、息子の助垂(河野まさと)、娘のエマニエル(保坂エマ)。三郎子の婿の大(池田成志)、息子の助焦(右近健一)、娘のちわ子(中谷さとみ)。さらに、助佐衛門の恩人の孫、野見山玉男(勝地涼)が顔を揃えていた。
彼らが見守る中、助佐衛門は壮絶な最期を迎えるが、翁の遺言で、一族全員がそろわなければ、顧問弁護士の粟館(粟根まこと)は、遺言状を公開できないことが判る。太郎子の息子、助比代はアマゾンの秘境探検に加わり、現地で行方不明になっていたのだ。折りしも、探偵であり脚本家の金田真一耕助之介(宮藤官九郎)は、弁護士の助手をつとめる糠橋(インディ高橋)の要請で、犬顔家の屋敷を訪れるため、屋敷の前に広がる犬カキ湖の辺にやってきていた。しかし、湖上を走るモーターボートが突如爆発し、糠橋は金田の目の前で死んでしまう。
という、ほぼイントロにあたるここまでの部分で、早くも満腹感に襲われる。下敷きになっているのは横溝正史原作、市川崑監督の映画「犬神家の一族」で、総勢2ダースもの役者たちが、パロディ、ギャグ、アドリブを繰り広げる。あれこれ有名ミュージカルの大胆な本歌取りや「八つ墓村」へ越境する一幕まである。
シリアスなものばかりという印象が強いここのところの新感線だが、今回のような路線は3年前の「レッツゴー!忍法帖」以来とのこと。不幸にして「レッツゴー」を見逃しているわたしとしては、新感線のおポンチ路線の楽しさを本当に久しぶりに満喫した。
それにしても、こういう路線だと、一段と冴えるのは独特の癖をもった脇役陣で、案の定、逆木圭一郎や村木仁が、物語のペースを乱して、いい味を出している。中谷さとみ、保坂エマといった若手の女優たちも、華やかさという点で貢献するようになったのも嬉しい。プロットから幕切れまで、徹底して遊びまくる「デスノート」からの引用も愉快だ。(休憩20分を含む185分)※大阪公演は終了。東京公演は9日まで。

■データ
公演パンフを買いそびれた痛恨のソワレ/池袋サンシャイン劇場
8・11〜9・9※東京公演
作・演出/いのうえひでのり 
出演/古田新太宮藤官九郎勝地涼橋本じゅん、高田聖子、小松和重粟根まこと、逆木圭一郎、右近健一、河野まさと、村木よし子、インディ高橋、山本カナコ、礒野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁、川原正嗣、前田悟、池田成志木野花池田鉄洋(映像のみ)