(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「狐狸狐狸ばなし」トム・プロジェクト プロデュース

ブログを公開している演劇関係者は多いけど、劇団からのノルマだったり、三日坊主だったりで、ご本人のポジティブなスタンスが伺えるものは実は少ない。その少ないもののうち、お気に入りをブックマークして読んでいるのだが、最近面白いのはケラの「日々是嫌日」だと思う。更新頻度も高いし、彼の仕事にまつわる裏話が多いのが嬉しい。
そのブログでケラは、この「狐狸狐狸ばなし」を粋で軽い小品と呼んでいる。これは、北條秀司の戯曲の親しみ易さ、軽妙さを指してのことだが、実は結構、毒もある。元のウェルメイドな部分を残しながら、そこにはケラ独特の味付けがなされているからだろう。
江戸時代のお話。伊之助(ラサール石井)は、上方で女形をやっていたこともあるが、今は吉原で手ぬぐい職人を生業にし、美しい女房がいる。ところが、その女房おきわ(篠井英介)は、とんでもない浮気女で、亭主に秘密でご近所の若い僧侶の重善(板尾創路)といい仲になっている。
重善への思いをつのらせるおきわは、伊之助を亡き者にしようと企む。少し頭の弱い使用人の又市(六角精児)の買ってきた染料に毒が含まれていると小耳に挟んだ彼女は、さっそくそれを夕食のふぐ鍋に入れ、毒殺を謀る。ところが、葬儀を終えて、ほくそ笑むおきわの前に、以前と変わらぬ姿で伊之助が姿を現す。
実は、江戸時代の話が劇中劇のようになっていて、病院を舞台に駄目男が登場する現代のお話が並行して描かれるのだが、これはおそらくケラの潤色だろう。ナンセンスなギャグをちりばめ、江戸の時代色の古びた空気を中和しようという試みにもうつる。
しかし、いかにもケラらしいシュールな笑いは、メインの江戸の物語にも仕掛けられており、時代劇が、一瞬、異空間へとトリップしてしまう面白さがある。北條秀司の世界にとってケラの笑いは異質なものだと思われるが、隔たりのある両者の質感は、ぶつかりつつも融合していく。古典の風味を損なうことなく、現代にも通用する作品に仕上げたケラの手腕が冴えている。
本筋の部分は、もうこれ以上はないというくらいにベタな世界で、役者たちも濃い演技を競っているが、とりわけ六角精児が毒をふりまき、いい味を出している。もとは森繁と山田五十鈴にあてて書かれたという伊之助とおきわの役だが、ラサール石井篠井英介のそれぞれに、大人の情緒がある。初めて観る舞台の板尾創路のクールな達者さにも感心した。(120分)※9日まで。地方公演は終了。

■データ
板尾が奈良公演の悲惨をアンコールで語った東京公演初日ソワレ/下北沢本多劇場
9・1〜9・9(東京公演)
作/北條秀司 演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演/篠井英介ラサール石井板尾創路、六角精児(扉座)、真山章志、大出勉、廣川三憲(NYLON100℃)、野間口徹(親族代表)、小林俊祐(K-Z企画)、皆戸麻衣(NYLON100℃)、植木夏十(NYLON100℃)、サチコ、小林由梨(Bーamiru)