(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「放免エスケープ」ロリータ男爵

ロリータ男爵を初めて観たのは、確か前々回の「エプロンの証」だったが、この劇団との出会いという意味で、悪い作品ではなかったと思う。双数姉妹からの今林久弥と、ベターポーヅからの吉原朱美という強力な助っ人の客演があって、破天荒かつコテコテのお話を、しっかりと支えている印象があったからだ。
しかし、今回の「放免エスケープ」は、ちょっとどうか。劇団の顔ともいうべき役者松尾マリヲや丹野晶子らは、それぞれの持ち味を十分に発揮しているとは思うのだけれど、やはり舞台上に並ぶカードが足りない気がしてしょうがない。
ある収容所。しかし、収容されているのは犯罪者ではない様子だが、長い囚われの身のせいか一様に体力がなく、脱獄など夢のまた夢。そんなある日、副所長の手引きで一日所長として収容所にやってきたぶた山君とその後ろ盾の入間川という人物が、収容者のひとり6061号に恩赦を与える決定をする。恩赦の決定に本物の所長は激怒し、慌てるが、白羽の矢を立てられた当の収容者も戸惑い、収容所の中を逃げ回ることに。
例によって、はちゃめちゃな設定の脱力系ミュージカルだけれど、物語的にいささか辛いのは、収容者たちがこの施設に閉じ込められている理由の弱さだ。もともとが説得力に乏しいものを、強引に観客に押し付けるパワーにも欠けるのが、観ていてもどかしい。2時間を越える長さというのも、物語をダレさせているが、もう少し物語を持ちこたえる存在が舞台上にいてもいい。
ただし、現在形のメインの物語と並行して語られるもうひとつのエピソード(看守山下と6001号の話)が終盤に機能してくるあたりの脚本の巧さは評価したい。他の役者たちとはひとり異なった役割を与えられた津久井亜以が、物語の鍵となる収容者6001号を好演している。この人の不思議な存在感は、今後この劇団の重要な戦力になっていくのではないか。(125分)※3日まで。

■データ
そうか、自由席は桟敷だったかと大後悔の初日ソワレ/下北沢駅前劇場
8・29〜9・3
作・演出/田辺茂範
出演/大佐藤崇、斉藤マリ、役者松尾マリヲ、加瀬澤拓未、丹野晶子、草野イニ、福屋吉史、津久井亜以、工藤史子、足立雲平、桜井ひな