(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「unlock#2:ソラリス」青年団リンク 東京デスロック

先ごろ新訳が出たスタニスワフ・レムの「ソラリス」をテーマにしたお芝居。われわれロートルのSFファンには早川書房版の「ソラリスの陽のもとに」の旧題でお馴染み、ついでにいえばアンドレイ・タルコフスキーの退屈な映画「惑星ソラリス」の悪い思い出もある。なお映画は、近年、ジョージ・クルーニー主演でリメイク(2002年、ジェームズ・キャメロン製作、スティーヴン・ソダーバーグ監督)されている。
幕があがると、そこには海をイメージさせる大量の水と、中心に浮かぶ白砂の島。おおっ、これはすごい。なるほど、開演前はしっかりと幕が降ろされていたのは、このせいか。遥か昔に読んだ原作の記憶と、前説に加えて映像でおさらいしたあらすじを頼りに、地球からやってきた人間と、このこの星の海が彼らに見せる幻影(しかし実体がある)の織り成す物語を追う。日に日に疲弊が極まっていく人間たち、しかし主人公の前に現れた亡妻も、やがて自分の存在に疑問を抱くようになる。
原典を反芻する試み、というのがストレートな第一印象だ。確認はしていないが、作・演出の多田による解釈、潤色もあるように思える。消耗していく役者たちが、なんともいえないリアリティをたたえているのも面白い。
そのあたりに、演出者の狙いがあったことをあとから知ったが、前説ですべてのストーリーを明かしてしまうのは、どうかという気もする。シチュエーションのみの説明にとどめ(これは観客をおいてきぼりにしないために必要だろう)最後の最後に衝撃のシーンをもってくる、という手法をとっても良かったように思える。
しかしそれにしても、途中で退屈を感じるのに、最後の最後までひきつけられる不思議な舞台だ。そんな中にあって、主人公(夏目慎也)と亡妻(石橋亜希子)のやりとりに、濃やかな感情を見て取ることができた。愛というものを、恋愛から切り離して浮かび上がらせる一つの手法、というと大袈裟だろうか。去年の「再生」でも独特の存在感があった石橋亜希子が、今回もとてもいい。(100分)

■データ
演劇関係者率が異様に高かった最終日のソワレ/こまばアゴラ劇場
8・10〜8・14
作・演出/多田淳之介 (原作/「ソラリススタニスワフ・レム
出演/夏目慎也、佐山和泉、石橋亜希子、大竹直、永井秀樹 ※増田理(バズノーツ)は降板