(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「リュウカデンドロン〜サーカステントか幼馴染の赤いスカート〜」黒色綺譚カナリア派第7回公演

2003年にこの劇団を旗揚げした赤澤ムックは、作・演出のほか毛皮族などへの客演やモデルなどもこなす多彩な活躍で知られる。残念ながら見逃したが、前回公演の「宵語りリュウカデンドロン」は、今回公演の後日談にあたるものだったそうで、本編をあとにもってくるという手法はちょっと面白い。
団長が去って3年、残された団長の妻羽巳(板垣桃子)が女座長として引っぱってきたサーカス団リュウカデンドロンもいよいよ解散。団員たちはそれぞれ次の人生を歩み始めるが、行方の知れなくなった団長が帰ってくるのを待つかのように、羽巳は拾い子の末乃(牛水里見)とサーカステントで暮らしている。その彼女を心の支えに、元団員たちも再結成の日を夢見て、お金を出し合っている。
しかし女座長が次第に狂気に蝕まれ、テントも老朽化していく。プロレスに転校して財産を作った元団員(辰巳智秋)を頼ってビジネス界に職を得た千早(眞藤ヒロシ)は、テントを解体し、そこにビルを建て、アミューズメント施設としてサーカスを興行することを夢見るが。
先入観として、勝手に耽美、アングラを思い浮かべていたわたしは、劇の作りがあまりに明快だったのにびっくりした。昭和30年代を思わせるノスタルジーや、乱歩などに通じるほのかな猟奇趣味はあるが、非常にストレートで、湿り気、粘っこさも少ない。役者の台詞なども含めて、判り易い。
実は、プロットとしてミステリの仕掛けがあるのだが、中盤あたりにネタバレ覚悟としか思えないシーンがあるのが個人的には残念。あれがなければ、冒頭の謎が最後まで引っぱっていけたのではないか、と惜しまれる。単に、作者がミステリの趣向に興味がないだけかもしれないのだが。
劇団の評価の高さは、判り易さゆえのものだろうか。我が儘を承知でいえば、すべてがすんなりいってしまうところに、物足りなさがないではない。役者は達者な人が多く、今回については客演陣も的を得た人選。わたくし的には、ラストシーン、あの死体の揺れ具合が、なんとも強烈だった。(100分)

■データ
近所の佐世保バーガーがお盆休みだったの初日ソワレ/中野ザ・ポケット
8・15〜8・19
作・演出/赤澤ムック
出演/山下恵、吉川博史、斎藤けあき、芝原弘、本間ひとし、板垣桃子(座敷童子)、眞藤ヒロシ、辰巳智秋(ブラジル)、牛水里美、中里順子、町田彦衛、升ノゾミ、尾上CHeRRy覚ノ新(銀鯱マスカラス)、潮見諭、赤澤ムック
舞台監督/中村貴彦 美術/吉野章弘 照明/奥田賢太(オフィスダミアン) 音響/筧良太(SoundCube) 衣装/西荻カナリア工房 制作/黒色綺譚文鳥派 看板画家/天野耕太