(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝フェイスインフェイス〟プレイメイトNo.6

これまでの長い人生で舞台に立った経験はたった一度、小学六年生の学芸会だけ、というこの身にとって、芝居や演技の神髄が何かってことには、まったく語るべき言葉をもたない。そんな素人にとって、唯一、役者はすごいなぁ、と思い続けてきたことがある。それは、涙である。役者は、ここぞという場面で、実に見事に涙を流してみせる。たとえそれが嘘の涙だとしても、そういう場面を見るたびに、わたしはちょっとした感動をおぼえる。
プレイメイトの「フェイス インフェイス」で印象深かったのも、NYLON100℃からの客演、新谷真弓の涙である。まさにハイライトともいうべき場面で、彼女のほろっとこぼした一粒の涙は、一瞬頬を伝い、白い衣装に吸い込まれていった。ほんの数秒間のことだったけれど、わたしの目はそのシーンに釘付けとなってしまった。破天荒で、スラップスティックなところのあるこの芝居を、ぐっと引き締めたのは、まさにあの場面だったと思う。
さて、「フェイス イン フェイス」は、ほぼ一年ぶりのプレイメイトの公演である。前回の「SWAP2004」は、京晋佑や野口かおるの達者な客演もあって楽しい舞台だったが、今回は、実際にも東映の戦隊ヒーローものに出演していたイケメン男優である西興一朗をゲストに、心に翳りをもつ整形外科医と屈折したイケメン俳優の10年にもわたる奇妙な医師と患者の関係を描いていく。
人気の美容整形クリニックに、若い俳優が訪ねてくる。彼、里中修介(西興一郎)は、自分が俳優として成長を遂げていくためには、自分のイケ面がどうしても邪魔だといい、整形外科医の海老原(近江谷太朗)に、自分の顔をブサイクにしてほしいと頼み込む。里中の不躾な態度と不可解な願い事に困惑する海老原だったが、結局は長い時間をかけて、彼の願いを叶えることを承諾する。
通院を重ねるうちに、里中は看護婦の新堂加奈(新谷真弓)と関係を持つようになるが、患者との関係を問い詰める海老原に対して、新堂はそれを否定する。そんなある日、海老原のもとに、高校のクラスメートだった船越(平賀雅臣)が訪ねてくる。彼は、自分の妻を帰してくれるように脅したり、すかしたり、海老原に懇願する。船越は、居合わせた里中に叩き出されてしまうが、翌日刑事(平賀の二役)が海老原を訪問し、船越が何者かに殺されたことを伝える。
サイコロジカルスリラー仕立ての凝った内容である。船越が登場するあたりから、海老原という人物の翳りある部分が次第に浮上し、やがて物語の構図そのものが反転する。説得力にやや不足があるような気もするが、このあたりの構成の妙味は面白いと思う。
テーマの根底には、容姿に対するコンプレックスというのがあって、それをこういうサスペンス劇で表現しているところに感心した。美人と不美人、そしてハンサムとブサイク。その両サイドを行き来する手段として、美容整形というガジェットを実に巧妙に使いこなしている。
新谷真弓は、一見大味な芝居ぶりなのだけれど、里中との濃厚なラブシーンや海老原への切ない思いなどを、場面場面を演じ分ける達者ぶりに感心させられた。とりわけ、先の涙の場面は、ぞくぞくするほどの感動をおぼえた。今度は、是非ホームのNYLONの舞台で元気な姿を見せてほしいものだ。
主要な登場人物のうち、近江も平賀もいい芝居ぶりだが、西はもうちょっと台詞をきちんと入れてこいよ、と思わせる場面が多かった。あ、これはイケメン俳優に対するコンプレックスからの発言ではありませんよ。

■データ
2006年10月6日ソワレ/新宿シアタートップス