(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

なぜCDにならない? EUROPEANS

アナログのレコードからCDへのメディア・シフトは、音楽業界にとって大きな変革だったろうし、ロックの分野においても過去の作品の発掘や再発が相次ぐきっかけとなった。
しかし、その影で、いつまでたってもCD化が実現しない過去の作品も実はある。そういう作品への渇望は、個人的にはレコードプレイヤーを廃棄同様の扱いをしてしまったことによって、ますます拍車がかかることとなった。

さて、そんなわたしがCD化を待ち望む最先鋒が、ここに紹介するEUROPEANSである。80年代のニューウェーブの旋風が吹き荒れるさなかに、彼らはA&Mレコードからデビューした。詳しいことは判らないが、下積み時代の苦労は相当にあった模様で、彼らはメジャー・シーンに浮上し、思い通りにツアーを組めるようになると、まったくの新人に機会を与えたいとして、ツアーに同行するバンドを公募するなどしていた記憶がある。
その彼らのファースト・アルバム『Vocabulary』は1983年のリリースで、当時の愛読誌だった〝Fool's Mate〟のレコード・レビューなどで好意的に取り上げられているのを観て、今はなき新宿三丁目CISCOで購入した記憶がある。
針を落として驚いたのは、まず楽曲の良さだった。ポップというのではないが、一度聴くと耳にのこってしまう個性的な曲がずらりと並び、ひとつひとつのクオリティも高い。時代性を反映してか、デジタルな打ち込みのリズムが基調になってるが、切れのよさと小気味よさがあって、非常に印象に残る。ほとんど同時に出たとおぼしき12インチのシングル『AMERICAN PEOPLE』も、即購入しました。
(曲名)Animal Song、A.E.I.O.U. Europeans、Voice on the Telephone Europeans、American People、Falling、Recognition、Innocence、Spirit of Youth、Modern Homes、Kingdom Come

しかし、わたしが彼らのファンになった決定的な一枚は、ファーストの好評を受けて、翌年にリリースされたライブ・アルバム『Live』である。これには、ぶっとんだ。バンドが上り坂を駆け上がる勢いがそのまま出ており、自信満々にステージに立っている姿が目に浮かぶ、とでも言ったらいいだろうか。デビューアルバムは、デジタルな印象が強かったけど、こちらはライブの脈動がびんびん伝わってくる熱い演奏で、聴き手を感動させてくれる。
(曲名)Typical、American People、Joining Dots、Innocence、Spirit of Youth、Going to Work、A.E.I.O.U.、Animal Song、Tunnel Vision、Falling

これでEUROPEANSというバンドへの期待は一気に膨らんだが、やはり同年の1984年にリリースされたセカンド・アルバム『Recurring Dream』は、それまでのバンドの曲の良さや、勢いがまったく感じられない平凡な出来で、非常に落胆した。ほとんどレコード評を見た記憶がないが、評判はやはりよくなかったのだと思う。急激な失速とともに、EUROPEANSというバンドは、シーンから姿を消してしまった。
(曲名)1001 Arguments、Home Town、Burning Inside You、You Don't Want Me (In Your Life)、Writing for Survival、Love Has Let Me Down、Don't Give Your Heart to Anybody、Acid Rain

バンドのメンバーは、Geoff Dugmore(Dr)、Fergus Harper(B)、Colin Woore(G)、Steve Hogarth(Kb)の4人で、Geoff Dugmoreはキリング・ジョークにも参加していたことがある。また、Steve Hogarthは現在はマリリオンのボーカリストとしてお馴染みの人だけれど、音楽界へのデビューとなったこのEUROPEANSではキーボードも担当していたようだ。
一応、アルバムはすべてアナログで所有しているのだけれど、ニューウェーブの再評価が進む中で、このバンドが忘れられている現実はあまりに惜しいと思う。ファーストとLIVEは十分再発に値するクオリティだと思うんだけれどな