(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「セインツ・オブ・練馬」ロハ下ル presents 01

その作風や方向性にひと区切りをつけたのか、それとも発展的解消だったのか。とまれ、スロウライダーをリセットした山中隆次郎が、數間優一、芦原健介をはじめ、町田水城(はえぎわ)、夏目慎也(東京デスロック)、金子岳憲(ハイバイ)らとともにスタートさせたのがロハ下ルのようだ。

戦後まもない日本。先の見えない閉塞的な社会状況に嫌気がさした民衆の間で、一大「スピリチュアル」ムーブメントが沸点に達していた。当時、占星術風水と並んで人気を集めたのは催眠術で、その術理書が一般発行されるや、全国には多くの山師的な催眠術師を生んだのだった。が、やがて、有象無象のえせ催眠術師のなかから、さらに特異な「進化」を遂げた者の噂が、巷間に聞かれはじめる…。人々が神人(じんにん)と名付けたこの能力者たちの検証に、研究者たちはこぞって名乗りをあげるのだが…。実在の超能力実験をモチーフに、凡人の「超越的なもの」への憧れを描く。(HPよりあらすじを転載。改行修正)

まずは、強力な客演陣の助っ人も功を奏し、見応えのある舞台を作りあげたという印象の旗揚げ公演だ。伊東沙保、山縣太一、遠藤留奈の突出した個性が物語を動かすエネルギーとなって、観客を引っぱり、最後まで飽かさない。これは見事だと思う。
ただし、不満もある。スロウライダー時代の十八番だったことは十分に承知しているが、そのホラーの世界から踏み出すことが、そもそもロハ下ルで試みるべきものだったのではないか。そういう意味では、従来の垣根を、ほとんど取り払えていない。これは、実に残念。
クライマックスにおいて、不可解な現象の裏側をくどいくらいに明かしていくあたりに、踏み込む意図があるのやもしれぬが、それは逆効果で、怪談で枯れ尾花を見せられたような気にさせられる。ホラーの領域における謎の解明は、大きなリスクを伴う。本作では、それが裏目に出てしまった形だ。
素地はしっかりしているので慌てる必要はないが、さほど間を措かない次の青山円形劇場では、新生面もぜひ見せてほしいと願う。(110分)

■データ
空席が目立ったのは平日マチネだったからなのか。ちょっと心配な旗揚げ公演/赤坂RED THEATER
7・1〜7・5
作・演出/山中隆次郎
出演/町田水城(はえぎわ)、數間優一、芦原健介、石澤彩美、伊東沙保、梅里アーツ、遠藤留奈、岡村泰子(きこり文庫)、シトミマモル、田中慎一郎、古河耕史、山縣太一(チェルフィッチュ