(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「グローブ・ジャングル」虚構の劇団旗揚げ公演

自分の同時代を語るべし、と言ったのは小林信彦だが、同感。語るにふさわしい時代は、つねに同時代なのだ。でもって、鴻上尚史にとっての同時代というと、それは第三舞台であって、この虚構の劇団ではないだろう。第三舞台を10年間封印(復活は2011年)しておきながら、新劇団に取り組む鴻上におぼえる戸惑いと素朴な疑問の根底には、それがある。とはいえ、第三舞台で育ったオールド世代の演劇ファンとしては、期待とともに率直に応援したい気持ちがあるのも事実で。
「おたく、キモイ」という不用意な発言から自分のブログを炎上させてしまった女子大生の七海(小野川晶)。それを仕掛けたのは、とある劇団を主宰する沢村(山粼雄介)だった。劇団員との摩擦から生じるストレスを、見ず知らずの他人に向けたネット上の悪意ある攻撃で解消していたのだった。その数年後、ふたりはロンドンで出会った。表向きはそれぞれに目的があったが、日本の生活に見切りをつけたふたりの心の奥底には、死の決意があった。
七海は下宿先のフラットで、幽霊の住田(小沢道成)と知り合う。住田とふたりで人探しをするさ中、そうとは知らず七海は彼女を今の境遇に突き落とした沢村と出会ってしまう。沢村は、劇団の経験を見込まれ、日本人学校で子ども向けの芝居を上演を準備していたのだ。ふたりは、やはり過去を引き摺る石丸(大久保綾乃)や長谷川(渡辺芳博)らとともに、沢村の芝居に参加するが。
カットインするダンスや蝋燭のシーンなど、既視感のある演出は悪く言えば手垢がついているのだが、反面その達者さが手堅く、それが心地よくも感じる。平均年齢二十歳そこそこの役者たちも、個人技、チームワークともに、去年の旗揚げ準備公演よりは確実に進歩している。脚本も、タイトルになっている遊具に無理やりこじつけるところにやや黴臭さを感じたものの、幽霊を登場させる仕掛けが物語の上でうまく機能していていることもあって、うまいまとまりを見せている。過去との折り合いというテーマのまとめ方も、予定調和の物足りなさがないとはいわないが、よく出来ていると思う。
ただし、この作品の時代感覚には、やはり若干の疑問がある。切り取った筈の時代のひとコマに、鮮度が感じられないのだ。ネット社会の弊害は、すでに社会の現実であり、それだけではすでに過去のものになりつつある。かつての第三舞台には、そこから一歩先の未来を予感する何かがあって、それが新鮮だった。その予見が当たると当たらざるに関わらず、先読みをする勇気は必要だろう。
あと、もうひとつ希望をいえば、役者たちのダンスのスキルももうちょっと引き上げてもらいたい。これは、第三舞台との比較の問題ではなく、時代とともに観客のダンスに対する目も間違いなく肥えてきていると思うからだ。正直今の役者たちのレベルでは、ちょっと物足りない。そのあたりをグレードアップした舞台を、次の紀伊国屋ホールでは大いに期待してまっせ。(110分)

■データ
劇場出口に観客のひとりひとりに頭を下げる鴻上さんが印象に残った初日ソワレ/池袋シアターグリーン BIG TREE THEATER
5・10〜5・25
作・演出/鴻上尚史
出演/大久保綾乃、小沢道成、小名木美里、小野川晶、杉浦一輝、高橋奈津季、三上陽永、山崎雄介、渡辺芳博