[本]どろ/山本甲士(短評)
角川書店と東京放送が主催する横溝正史賞は、大賞を取るよりも、賞にかすったり、落選した方が作家として大成するという噂があったり、なかったり。鈴木光司、打海文三、霞流一とその名を挙げていけば、それもちょっとしたジンクスかも、と思えてくる。
第16回(平成8年)の同賞で、「ノーペイン、ノーゲイン」が優秀作に選ばれた(というか、惜しくも大賞を逃した)山本甲士も、そんなひとりと言っていいかもしれない。最近は、「ALWAYS三丁目の夕日」のノベライズなど、多彩な活躍を見せている人だが、ミステリ系の読者へのお奨めは、果てしなき隣人戦争の顛末を描いたこの「どろ」という作品である。
隣人とのトラブルがエスカレートする話というと、映画の「ネイバーズ」を思い浮かべてしまうわたしだが、「どろ」には常識人のジョン・ベルーシを変人のダン・エイクロイドが悩ませるといった一定の図式は存在しない。交互に描かれる隣人同士には、それぞれに理があるし、読み進めていくうちに、自分も明日はこうなるかもしれない、と慄然とした気持ちに読者を陥れる。
嫌がらせがエスカレートして、ついには殺し合いに発展していくお話は、犯罪小説の変形ともいえるし、ディープに描かれるふたりの隣人同士の心情はそこはかとなくダークで、ノワールの香りが漂う。2001年の初刊時にはあまり話題にならなかった作品だが、もっと読まれていいだろう。必読。
- 作者: 山本甲士
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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