(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

青年団第66回公演「月の岬」

「海と日傘」で岸田賞をとっているマレビトの会の松田正隆の代表作にして、平田オリザとのコラボ作。初演は1997年。その後再演を経て、今回は12年ぶりの再々演だとか。わたしは初見である。
長崎方面の離れ島。姉と弟の二人暮らしの風景を軸に、島で暮らす人、島を訪れる人が行き交い、姉弟にまつわる人間関係が描かれていく。弟は結婚し、一家は三人家族になるが、その一見穏やかな毎日の水面下には、ミステリアスな内実があって、さまざまなわだかまりが静かに渦を巻いていく。
そのわだかまりの正体が明かされる物語の収束点に向かって、物語は大小いくつもの波紋を描いている。あとからふり返ってみると、小さな出来事のひとつひとつが実に巧みに組み立てられていて、「なるほど」と感心させられる。しかし、眺めている時間は、正直退屈だった。
舞台装置は、旧家風の家の居間が正面に設えられている。そこに訪ねてくる教師をしている弟の教え子たちや、姉を追いかけてきた元恋人(不倫相手?)と思しき人物らが、ドラマを織り成していくという構成だ。しかし、そのどれもがどこか手垢のついたものに思えてしまう点で、物語への好奇心はたちまち薄れてしまう。人々を取り巻く空気がどこか旧弊で、作品が初演された90年代とはまったくシンクロしないし、そこに描かれる価値観も、かび臭く感じられてしまう始末だ。今、この作品を再演する意味みたいなものが、希薄に思えてならなかった。
観客席のやや後方からの観劇だったが、役者たちの台詞が聞き取りにくかったのも苛立たしかった。自分の耳のせいもあろうが、アフターイベントの内田淳子のリーディング(太宰治の「皮膚と心」)は、とてもシャープに耳に飛び込んできただけに、その不自由な思いはなおさら。演出面において劇場内の広がりをどこか制しきれていないような不満が残った。(マチネ、110分)

■データ
6・8〜8・17@座・高円寺1
作/松田正隆 演出/平田オリザ
出演/根本江理子、太田宏、大塚洋、井上三奈子、山本雅幸、河村竜也、村田牧子、山本裕子、木引優子、近藤強、伊藤毅、井上みなみ、内田淳子(客演)