(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

劇団☆新感線2012年春興行 いのうえ歌舞伎「シレンとラギ」

久々に劇場で聴くジューダス・プリーストの曲とそれに続く列車発車の合図音。シアタートップス進出以来のオールドファンだけど、チケット争奪戦とお高いチケットにちょっと嫌気がさして、遠のきがちだった劇団☆新感線。久しぶりにちょっと観てみたくなって。
長くなるが、公式サイトに掲載されている内容を参考に、ストーリーを紹介する。隣り合わせに共存する南北ふたつの王朝の物語。愚かなギセン将軍(三宅弘城)を執権のモロナオ(栗根まこと)が裏から操る北の王国では、侍所のキョウゴク(古田新太)とその息子ラギ(藤原竜也)が武人として王朝を支えていた。先代王の十三回忌に、敵国の刺客が侵入するが、それを仕留めたのはキョウゴクに仕える毒使いのシレン永作博美)だった。闇の一族に属するシレンには、20年前に南の王国を牛耳る独裁者のゴダイ大師(高橋克実)を暗殺したという武勇伝があった。しかし最近になって、そのゴダイが実は生きているという噂が広まっていた。
キョウゴクの命を受けたシレンは、ラギをともない南の王国へと向かうことに。任務は、もちろん改めてゴダイの命を奪うことだ。一時は衰退していた南の王国は、ゴダイの復活により勢いを盛り返しつつあった。しかし、ふたりの目の前に現れたゴダイに、かつての独裁者の面影はなく、赤子のような人物になり果てていた。
その頃、北ではでっちあげの謀反の罪で窮地に立たされていたキョウゴクを助けるために、かつての盟友ダイナン(橋本じゅん)が南から駆けつけていた。自分達の手で南北統一を果たそうと、キョウゴクを口説くダイナン。一方、行動をともにするうちにシレンとラギは互いに惹かれあうようになっていた。しかし、ふたりの間には、いまだ知らされていないある秘密が隠されていた。
中島かずき、新感線の近年のコスチュームプレイ=時代劇レパートリーでは、まずまずの出来なのかもしれない。そう断ったうえで、気になったところをいくつか挙げると、シレンとラギの因縁という主題が、正直物足りない。あまりに早い時点で透けてしまうので、てっきりもうひと捻りあるのかと思わせてしまう。
捻りといえば、古田が演じるキョウゴクというキャラクターも同様で、善と悪との間での変転だけでは、どこか薄っぺらい。そこからさらに踏み込む複雑な人間性があってこそ、キョウゴクという人物の凄みが出ると思うのだが。底知れぬ悪辣さと強靭さを秘めたキョウゴクも同様。中盤で復活し、一瞬期待を抱かせるものの、そのまま不完全燃焼で退場してしまうし、ギセンも面白くなってきたなと思ったところで、フェイドアウトする。高橋克実にしても三宅弘毅にしても、いい味を出しているだけに、使い方が中途半端にうつるのは否めないところだと思う。
もうひとつ、キャストだが、永作博美と藤原達也は、ミスキャストではないか。シレンとラギに課せられた罪を背負うには、あまりに存在感が華奢に思える。ふたりともいい役者だと思うが、この役は水を得ていないと感じた。後半に退屈してしまうのは、物語、登場人物ともにお手軽で、熟成に欠けるせいではないかと思った次第。
大衆演劇としてのエンタテインメント性は十分かもしれないが、付き合いの長い新感線の観客には、やや物足りない。刺激に馴れてしまった、というのもあるだろう。しかし、木戸銭のことを考えると、どこか速成栽培の物足りなさを感じたのも事実。一万円超えのチケットに見合う芝居って、どういうのだろうとふと考えさせられた。(マチネ、休憩20分を含む210分)

5・24〜7・2@青山劇場
作/中島かずき 演出/いのうえひでのり
出演/藤原竜也永作博美高橋克実三宅弘城北村有起哉石橋杏奈粟根まこと、高田聖子、橋本じゅん古田新太、右近健一、逆木圭一郎、河野まさと、村木よし子、インディ高橋、山本カナコ、 礒野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁、他