(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

キャラメルボックス・アナザーフェイス「ナツヤスミ語辞典」

アナザーフェイスとは、キャラメルボックスが他の劇団とジョイントで公演を行う他流試合のようなもの。なんと14年ぶりだという今回は、89年に初演、その後91年を皮切りに何度か再演されている人気のレパートリーを俎上にあげて。
水泳嫌いがエスカレートして、学校のプールの水をこっそり抜いてしまった中学二年生のヤンマ。先生から叱られた彼女は、友達のカブト、アゲハとともに、プール掃除を命じられた。ブーたれながらデッキブラシを握るそんな彼女たちの前に、ウラシマを名乗る奇妙な男が忽然と姿を現した。
写真家の母親からの影響で、ヤンマは家からこっそり持ち出した母親のカメラを持ち歩いていた。しかし、それを借りてウラシマが撮影した写真を現像してみると、そこには15年前の景色が写っていた。
夏休みをめぐるわくわく感が冒頭から爆発。まさに、キャラメルボックスと柿喰う客という団体のポジティブな側面が相乗効果で畳み掛けてくるオープニングから、高揚感が心中を駆け巡り、目は舞台に釘付けになってしまう。
八百屋舞台にさらに左右の傾斜を加えた何度の高い装置は、いかにも演出の中屋敷好みで、つんのめるようにスピード感あふれる物語にはぴったり。ふと、バルコニー席から眺めてみたい、という気持ちにもなった。
両団体の選抜チームを中心とした役者たちの動きも実にいいが、特筆すべきは主役のヤンマを演じた熊川ふみ。これまでも所属の範宙遊泳やよそへの客演で、小柄ながらやたら目立つ存在だとは思っていたが、これまでのややエキセントリックな印象を払拭し、中学生女子のイノセントな存在感を溌剌と演じ切った。この成功は、彼女自身の大きな自信に繋がるに違いない。(125分)
■データ
新国立劇場 小劇場
8・3〜8・11
作/成井豊 演出/中屋敷法仁
出演/多田直人、渡邊安理、井上麻美子、鍛治本大樹、林貴子、原田樹里(以上、キャラメルボックス) 、七味まゆ味、コロ、深谷由梨香、村上誠基、永島敬三、大村わたる(以上、柿喰う客)、熊川ふみ(範宙遊泳)、川田希、森下亮(クロムモリブデン