(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「足りてる男」ピンズ・ログ第5回公演

旧パノラミン遊園。ピンズ・ログを名乗ってから5回目となる公演。わたしは、第3回の「原形質・印象」からのおつき合いだが、以来見逃せない演劇ユニットのひとつとしてマークしている。素敵なちらしのアートワークに目を奪われのも毎回のことだ。
今回は、とある芸能プロのお話。兄がテレビで人気のベテラン俳優、弟が社長というプロダクション。人気のお笑いユニットや女性タレント、構成作家も抱え、業界では中堅と思しい。しかし、離婚した兄の財産分与問題で、元マネージャーで別れた妻から法外な要求を突きつけられた弟は、金策で頭を抱えている。そんな矢先、兄に若手女優との新たなスキャンダル問題が持ち上がり、弟は苦肉の策として、お笑いユニットの人気者をマスコミへの生贄よろしくダミーに仕立てあげるが。
古臭いくらい、と書くと語弊があるが、ここまできっかりと書かれた脚本というのは、今どき珍しいのではないか。脇役に至るまでの登場人物ひとりひとりの造型の確かさから、プロットの組み立ての緻密さ、流れるようなドラマの展開に至るまで、間然するところがない。
さりとて優等生的な内容かというと、うわべだけの完成度に作者は決して満足しない様子で、ややもすると互いのエゴをむきだしにするような登場人物たちのぶつかり合いがあちこちで火花を散らす。終盤、何度か幕となっても不思議でない場面で、さらに次の展開へと物語を進めていく粘り腰も見事だ。
お話には、ほのかに昭和のテイストが香るが、テレビがこれまで通りでは立ち行かない現在の状況をさりげなく窺わせ、時代の空気をたくみに取り込んでいる。緻密な脚本に縛られず、自在な動きを見せつつ、繊細な心の動きを表現する役者たちも、作者の志しの高さにきちんと応えている。
次回は再演と聞くが、さて過去のどの作品を見せてくれるのだろうか。(110分)

■データ
作りこんだセットの素晴らしさもポイントが高い二日目のソワレ/中野ザ・ポケット
1・12〜1・17
作・演出/平林亜季子
出演/青山伊津美(演劇集団円)、石塚義高、古賀裕之、小島幸子、小山亜由子、迫田圭司(演劇集団アーバンフォレスト)、土屋壮、坂東七笑(劇団だるま座)、増井太郎、三土幸敏、皆戸麻衣(ナイロン100℃)、森脇由紀(青年座)、横塚真之介(バイ・ザ・ウェイ)