(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「トラベリング・オン・ザ・シャーレ」カムヰヤッセン第4回公演

今年上期のちょっとした衝撃だった「レドモン」@王子小劇場のカムヰヤッセン。主宰の北川大輔は、東京大学の劇団綺畸にいた人のようで、2008年に独立して学内で旗揚げ。今回のGreen55学生芸術祭vol.3への参加も、東大代表という位置づけのようだ。
近未来のお話。すでに人類が克服したある難病について、なぜかその経緯が一切が後世に伝えられていない。ヒロインは、その謎を解き明かすべく、過去への旅を志す。その時代、科学はすでにタイムトラベルを可能にしていたが、歴史改変のリスクから、政府はその運用を限定していた。面接試験の難関を突破した彼女は、21世紀の初頭に到着し、病院に新米の医師としてもぐりこむことに成功。着々と周囲の環境や難病に苦しむ患者たちと馴染んでいくが、彼女の元の時代で起きたテロが、彼女に究極の選択を強いることに。
前作では異星人、本作では時間旅行と、非日常のテーマを自在に使いこなすのは、やはり世代ゆえだろうか。いや、どの素材もSFのガジェットとしては古典に属するものだけど、それをまったくの違和感なしに使ってしまうあたり(おそらく本人たちには自覚がないと思うが)、世代の差を感じる。
しかし、そうした軽やかさはもちろん長所なのだが、まだたどたどしいところも残されている。本作でいえば、ヒロインがすでに治療法の見つかっている病気になぜそこまで拘るかがなかなか見えてこないし、タイムパラドックスをめぐる展開も、手垢のついたもので、新鮮さには欠けると思う。
一方、差別意識への目線など、お手軽な作りからは出てこない硬派な姿勢は、間違いなく彼らの持ち味であり、強力な武器だろう。そして、前作で胸倉を掴まれるようなショックを受けた終盤の叙情は、本作でも健在。おそらくは確信的なのだと思うが、幕切れ間近、まんまとその手に乗って、心を揺さぶられる快感を今回も味わった。(100分)

■データ
さすがに学生さんだらけだったマチネ/池袋シアターグリーン BASE THEATER
9・2〜9・6
・Green55学生芸術祭vol.3参加作品 ・第21回池袋演劇祭参加作品
作・演出/北川大輔
出演/甘粕阿紗子、金沢啓太、遠藤友香理、荒川大(劇団ハーベイ・スランフェンバーガーのみる夢)、伊坂共史、今城文恵(メタリック農家)、小川貴大(ハイベビ)、金子裕紀、小島明之、小林史緒(サムライプロモーション)、さいとう篤史、下野友也、菅原達也、田口ともみ、松澤孝彦(サイバー∴サイコロジック)、野上真友美、野田裕貴(バナナ学園純情乙女組)、北川大輔