(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「五人の執事」パラドックス定数第19項

独特のストイシズムと社会派の心意気で、わが道を往く感のある野木萌葱とパラドックス定数。今回のテーマは、手強い星のホール@三鷹芸術文化センターの空間だったと思う。
五人の執事が暮らす屋敷。執事たちには、それぞれに屋敷や主人とかかわってきた歴史があり、互いには序列もあるようだ。ある日のこと、長らく臥せっていた主人がベッドで息を引き取った。その瞬間から、彼らの中に波紋が広がり、それはやがて狂気へと変っていく。しかし、そこからは彼らをめぐる真実も浮かび上がってきて。
非常に良質の心理ミステリを堪能した。不条理を思わせる前半の入りだが、中盤でいつのまにかそれがミステリ劇へとスライドしていく。大団円で名探偵が真犯人を指名するような明快さはないが、主人と執事をめぐる真相のようなものが浮かんでは消えを繰り返す終盤は、実に見応えがある。
冒頭に書いたように、この新作は星のホールという、小さな演劇をやるには無駄にだだっ広い空間を、どう料理しようかという戸惑いとから出発したのではないかと思う。しかし、イギリスの伝統的なミステリを思わせる大邸宅を、パースペクティブに見せるというアイデアは実に見事。広い舞台空間を、客席を狭めることによってさらに広く使う手法は、見事な発想の転換でもあったし、毒をもって毒を制したともいえるだろう。
この星のホール以外では、おそらく再演不可能な傑作が誕生したと思う。(110分)

■データ
主宰のきめ細かい案内も印象的な土曜のマチネ/三鷹芸術文化センター星のホール
7・31〜8・9
作・演出/野木萌葱
出演/植村宏司、十枝大介、西原誠吾、井内勇希、小野ゆたか