(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「すこし離れて、そこに居て」散歩道楽2009夏

スケジュールの都合があって前作(「レモン・スター」)はスキップしてしまったので、久々の散歩道楽。(2007年の「西国分寺物語」以来か)中規模劇場シアター・サンモールへの進出作で、第三舞台大高洋夫を客演に迎えての新作公演。

東京近郊の小さな町。かつて賑わった商店街も、今はコンビニやスーパーの影響、後継者問題などにより、時代に取り残された淋しい状態となっている。それでも細々と生き残っている店もあるわけで、この「笠置豆腐店」もその1つである。とびきり美味いわけではないが、素朴で、しっかりとした豆腐をつくり、地元住民にそれなりに愛されている。(公式サイトよりあらすじ引用)

呆けの始まった父親、借金を抱える長女、引篭もりがちの長男、妻は家出と、主人公である笠木豆腐店主人のおかれた状況は、まさに現代の家族関係をめぐるさまざまな問題の縮図を見るようだが、劇作家太田善也にとってはまさに真骨頂ともいうべきシチュエーションだ。彼の描く物語は、人情喜劇やホームドラマといった暖かいものを基調にしているが、社会派としての目線が必ず絡んでくる辛口の要素がある。
主人公の意外な性癖が明らかになる展開は、本作においてもその辛口の最たるものだが、伏線はあってもやはりそこまでの人物像と矛盾し、説得力に欠けるのが惜しい。笠木家の長女を庇おうと、近所の面々が一致団結してとる行動も、観ていてなるほどと思わせてほしいとも思う。
大高洋夫はさすがに頭ひとつぬけた上手さだが、若い役者たちとの溶け込みが今ひとつのようにも感じた。このあたりは、客演陣の多さとも関係があるのかもしれない。
とはいえ、散歩道楽の芝居は心にしみる。周囲に似たタイプの劇団が見当たらない強みもある。人生の酸いも甘いも噛み分けた懐の深さが伝わってくる、今回もしっかりとして見応えある仕上がりだった。(120分)

■データ
アフタートークにもなかなかの工夫があったソワレ/新宿御苑シアターサンモール
8・5〜8・9
作・演出/太田善也
出演/大高洋夫、名取幸政(劇団青年座)、大谷雅恵(メロン記念日)、柴田あゆみ(メロン記念日)、宮原将護、松本貴史、久保文子、菊池美里(トリコ劇場)、ヒルタ街、キムユス、川原万季、植木まなぶ、郷志郎、谷中田善規