(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「cover」ペンギンプルペイルパイルズ #14

意外にも、初本多劇場とのこと。しかしさらに意外なことに、初日ソワレは空席が目立って。

姉は三十年前に姿を消した。二人の弟はすでに諦めていた。ある日孤独な漁師がタコを釣る。タコの背に手紙が張り付いていた。姉が子供の頃に風船で飛ばした手紙。弟達は手紙を引き取りに漁師を訪ねる。差出人が死人だと聞いて漁師は落胆する。電話が鳴り、受けた漁師は飛び出して行く。お返事お待ちしています、と女の声は言った。(特設サイトよりあらすじ引用。改行等修正)

前回のシアタートラムでの公演(審判員は来なかった)では、がらりと作風を変えたPPPPだけれど、本作では再びもとの路線に戻った印象。笑いと緊張感で観客席を満たす冒頭のカーチェイスシーンのあとは、シリアスな家族のドラマへと突入。ファンタスティックで、ちょっと掴みどころのない倉持ワールドは前半から全開だ。
シグソーパズルに例えるならば、PPPP(というか、倉持裕)の作品は余分なピースが交ざった不良品(失礼!)のようなもので、不条理な余剰感に満ちている。この「cover」も例外ではなく、子どもの頃にさらわれてしまった姉を探して、ゴムの木に絡まれた家で鳥塚兄弟(玉置孝匡と吉川純広)が体験するのは、謎また謎の一夜だ。
その家で出会った女(鈴木砂羽)は確かに、自分たちの実の姉のようなのだが、彼女が一緒に暮らしている兄弟と称する男たち(小林高鹿と近藤智行)は、不思議に無邪気だったり、何かを隠している様子だったり、姉との繫がりもどこか掴みどころがない。しかし、鳥塚兄弟の水先案内人をつとめた漁師(谷川昭一朗)が、最後に口にするひと言が、そんなもやもやのようなものを一気に払ってみせる。家族関係の構図が一変するこの瞬間が、夜明けのイメージとダブって、実に鮮烈だ。
新鮮味のある作品ではないが、PPPPの魅力の本質を再確認させてくれる新作だった。(110分)

■データ
最前列からは舞台奥がやや見にくく、歯痒かった初日ソワレ/下北沢本多劇場
7・17〜7・26
作・演出/倉持裕
出演/鈴木砂羽、小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、近藤智行吉川純広、谷川昭一朗
音楽/SAKEROCK