(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ケモノミチ」ブルドッキングヘッドロック vol.17

最初が三鷹芸術文化センターで観た「不確かな怪物」だから、長い付き合いというわけじゃない。しかし、舞台上がやや混沌としていた二年前と較べると、格段の進歩があるように思えるブルドッキングヘッドロックの新作。

「アイツ」は突然現れて、僕らの住んでいた街を粉々に吹き飛ばした。その巨大な「アイツ」の正体を知るものは誰もおらず、飛び交うのは全て憶測の域のものでしかなかった。勝手に名前をつける者がいたが、僕にはどれもしっくりこなかった。ヘドロの様な体表、奇妙にうねる触手、生臭いニオイと地鳴りの様な鳴き声が、僕の思い出せる「アイツ」のことだった。
遅かれ早かれ、僕は動き出すつもりでいた。ありきたりで申し訳ないが、僕は仕事に行き詰まり、好きな女に裏切られ、なにかをぶち壊してやりたいと思っていた。「アイツ」がどうこうしなくても、僕はいずれことを起こすつもりだったんだ。なんだ、余計なことしやがって。すべて仕切り直しだ。僕は僕を裏切った女を連れて街を離れた。その女にとって、今やオレだけが支えだという。僕はたまらなく心躍った。その女に、「アイツ」が与えた以上の猛烈な地獄を与えてやるチャンスを、僕はひっそりと待ち構えた・・・。(サイトよりあらすじ引用)

怪獣が首都を破壊しまくるイントロにまずぎょっとしてしまい、この先どうなっていくのだろうとちょっと不安に駆られたりもしたけれど、実に無理なく海辺の田舎町のストーリーへとスライドしていく。まず、その冒頭部分の冒険心と日常への繋ぎのうまさに感心させられる。
しかし、本領発揮はここからで、ヒロインを中心に、彼女が後妻に入った旅館を営む一家のちょっと複雑な人間模様をつぶさに描いていく。現在と過去のエピソードもいくつも絡まりながら、それでいて物語には一本筋の通った骨の太さがあり、ぶれるところがない。
脚本のうまさは勿論だが、役者に関していえば、以前から個性派を揃えて、持ち駒も多い強みがあったが、今回はそれをフルに活かした印象がある。去年の学園二部作も悪くなかったが、本作の仕上がりは一段上といっていいだろう。
主宰の喜安が帰属するナイロンとはまたひと味違った面白い存在として要マークだ。(150分)

■データ
2時間超の長さがまったく気にならなかったソワレ/中野ザ・ポケット
7・8〜7・12
作・演出/喜安浩平
出演/西山宏幸、篠原トオル、永井幸子、寺井義貴、小島聰、馬場泰範、山口かほり、藤原よしこ、深澤千有紀、三科喜代、岡山誠、伊藤聡子、喜安浩平、加瀬澤拓未、川上友里(はえぎわ)、川村紗也(劇団競泳水着)、嶋則人(Oi-SCALE/マグズサムズ)、竹井亮介(親族代表)