(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「スメル」キリンバズウカ Tokyo 2nd Shot

前作「飛ぶ痛み」の前日譚にあたる本作。「永住禁止条例」が施行された近未来の東京。働かざるもの住むべからずで、定職もなく、納税もしない若者は、帰郷を余儀なくされる。しかし、その条例にはちょっとした抜け道もあって、ゴミ屋敷の清掃ボランティアに志願して、東京にしがみつく若者たちがいる。
登場人物たちの人間関係やコミュニケーションを濃やかに描く作・演出の持ち味は本作でも引き続き活かされている。達者な役者たちを多数起用したメリットが大いに生かされているとも思う。
その一方で、捻りに捻ったシチュエーションは、いまひとつ機能していないのではないか。前作での(まさに)飛ぶ痛みしかり、本作での永住禁止条例もまたしかり。凝ったアイデアなのだが、それがなければ物語が成立しないほどのものとはどうしても思えない。そこに、やや空回り感があるといったら言い過ぎ?
役者では前作にも増して、主演の黒岩三佳がいい。この人のコメディエンヌぶりはなかなか強烈なのだが、人間のギリギリの気持ちをきっちりと表現することもできる実力の持ち主ですね。飄々とした深谷由梨香や、達者な浦井大輔らもいいが、全体に毛色の違う稲川実代子とのすり合わせがもう一歩という気もする。世代間のギャップ以上のつぎはぎ感があって、お話のつくりものめいた印象を強めてしまっているのが惜しい。(105分)

■データ
主宰のおかんが大阪からはるばるアフタートークに登場したマチネ/王子小劇場
7・4〜7・12
作・演出/登米裕一
出演/稲川実代子、黒岩三佳(あひるなんちゃら)、永山智啓、折原アキラ、浦井大輔(コマツ企画)、深谷由梨香(柿喰う客)、永島敬三、河西裕介(国分寺大人倶楽部)、遠藤友香理(カムヰヤッセン)、花戸祐介、細野今日子(劇団競泳水着)