(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話」

「抜け穴の会議室」が取り結んだ前川・仲村コンビ再び。世界に誇る(?)小泉八雲の「怪談」という古い酒を、イキウメの前川知大という新しい器に入れる試み。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)

古びた旅館に二人の男がやってくる。二人はある事件を追ってきたのだが、そこで会った一人の男と話し込んでしまう。「この辺りには妙な噂があってね、聞いた話なんだが…」三人はかわるがわる、奇怪な物語を語っていく。しかしその話は、いったい誰の話なのだろうか。少しずつ、追っていたものが姿を現していく(公式サイトのストーリーより。改行修正)

最初の「常識」は仲村トオル、次の「破られた約束」は池田成志と、語り部を交代しながら、百物語風に進められていく。この二話に関しては、定石どおりとはいえ、堂に入った演出もあって、怪談の単品としてもなかなか感心させられる出来映え。(「ウーマン・イン・ブラック」の百倍は怖い)
しかし、第三話の「茶碗の中」で、にわかに物語の空気が変る。さらに次の「お貞の話」の中で、一話完結のオムニバスだった形式は、あれよあれよという間に、大きな物語のうねりへとスライドしていく。そして、クライマックスは牡丹灯篭に材をとった「宿世の恋」。物語と現実の両世界は、結末に向けて次第にシンクロしていく。
この中盤の物語形式が変容してからの展開は、まさに前川知大の十八番で、イキウメ公演の変奏曲のようにも映る。とりわけ、輪廻転生をめぐるグレートフルデッドのTシャツのエピソードが印象的だが、欲をいえばそのあたりの先読み不能な緊張感をもう少し持続させてほしかったと思う。やむないこととはいえ、着地点が見えてきたとたんに物語のセンス・オブ・ワンダーはみるみる失速していく。
仲村トオルの意外な上手さ(失礼)はすでに前回で承知済みだが、緩急自在の演技で池田成志がほとんど全編で観客の注目を集める。ここまでいい味を出している池田は、久し振りのような気がする。相棒の小松も面白いキャラクターの持ち主なのだが、舌足らずな活舌の悪さが、どうしても気になってしまった。(120分)※20日まで

■データ
脇を固めるイキウメンたちの手堅さも光っていたソワレ/三軒茶屋シアタートラム
7・3〜7・20
原作/小泉八雲 構成・脚本・演出/前川知大 
出演/仲村トオル池田成志小松和重、歌川椎子、伊勢佳世、浜田信也、盛隆二、岩本幸子