(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「鳥の飛ぶ高さ 〜Par-dessus bord」青年団国際演劇交流プロジェクト2009 日仏交流企画

公演期間も後半に差し掛かると、否応なくその評判が耳に入ってくる。「鳥の飛ぶ高さ」をめぐっては、あちこちの劇評でその評価が両極端な賛否に分かれていて、これは絶対に確かめにいかねば、という気にさせられた。とはいえ、青年団なので、ある程度のクオリティは確保されているというセーフティネットは張られているわけだが。
フランスの現代劇作家ミシェル・ヴィナヴェールの作を平田オリザが翻案、フランスの新鋭アルノー・ムニエが演出する。そもそもはアメリカ資本によるフランス企業の買収を描いた作品で、30年ほど前に書かれたもののようだ。しかし、それをフランス資本による日本企業の買収に置き換え、便器メーカーの草分けたる家族経営の企業にまつわる栄枯盛衰史のひとコマとして描いている。
もともとは非常に長い芝居を、今回はそれを2時間強にアブリッジしての上演とのことだが、それゆえかテンポがとてもいい。スピードに乗って、サクサクと物語が進んでいく快感がある、といったらいいだろうか。これを観ていると、7時間とも8時間とも言われる元の長さは、ちょっと想像がつかないくらいだ。
時代が資本主義への信頼の失った今の地点から眺めると、ここで描かれる買収劇はもはやひと昔前の光景で、まだ資本主義の経済理論が神話のように通用している時代の物語だ。ビジネスの世界も、今から思えば牧歌的であったなぁ、と感慨深いものがある。その一方で、現在の世界経済の破綻を予感させるような箇所もあって、平田オリザの言う経済演劇としての切り口は光っている。
一見、味気ないものに流れがちな経済視点のドラマだが、家族関係の微妙な愛憎や、それに絡む恋愛劇もあって、〈エコノミスト〉や〈会社四季報〉的な世界の要素に人間関係を孕んだ豊穣なドラマが溶け込んでいる。さらには、差し挟まれるひらたよーこの神々の時代の天孫降臨をめぐるしなやかな講義が、実に心地よく物語と呼応している。
青年団の役者たちの間を、フランス人の役者たちが行き来する舞台風景も(月並みな言い方ではあるが)お洒落で新鮮。足を運んだのはぎりぎりの最終日になってしまったが、これは観て良かったと思う。(135分)

■データ
サンプルにも参加している辻さんに受付してもらい、会場整理をされていた古屋さんを間近に拝んだマチネ/三軒茶屋シアタートラム
6・20〜6・28
原作/ミシェル・ヴィナヴェール 演出/アルノー・ムニエ 翻案・演出協力/平田オリザ
出演/山内健司、ひらたよーこ、松田弘子、志賀廣太郎永井秀樹天明留理子、太田 宏、大塚 洋、田原礼子、石橋亜希子、大竹直、畑中友仁、高橋広司(文学座)、フィリップ・デュラン、エルザ・アンベール、ナタリー・マテール、モアンダ・ダディ・カモノ