(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「芍鸝(シャックリ)」劇団乞局第16回公演

違和感は乞局の持ち味のひとつなのであるから、彼らの常連客は、お話がちょっとやそっと日常から乖離してても、それを愉快に思いこそすれ、マイナスだとは思わない。いや、常連客ってのは、つまりはわたしのことなのだけれど。難しい字をタイトルにあてた新作は、さて?
とある都市公園に、社会からのドロップアウト組が集っている。単なる浮浪者なのに、神話の神々の名を名乗ったりして、彼らは神の国を建国した気になっているようだ。今日も、新しい仲間たちを迎える入国のセレモニーが賑々しく行われている。
そんなへなちょこな神々連中にとっても、彼らの上に立つ真の神は誰かという問題は、それぞれ荷が重過ぎるのか、はたまた争いを避けるためか、外部の人間を奉っている。会社ではOL、家では主婦彼女は、つのる日常の不満からついふらりと入り込んだこの場所で、真の神として奉られてしまった。公衆便所の便器を王座に見立てて、そこに彼女を座らせ、崇めている浮浪者たち。しかし、そのひとりが腐った酒を口にしたことから、女神としもべたちの主従のバランスが崩れ、彼らの国は混乱状態に陥る。
浮浪者の集団幻想にしても、キャリアウーマンの現実逃避にしても、それぞれは十分に飲み込めるのに、なぜか全体として違和感が感じられる。下水道の地下世界でサバイバルを繰り広げる「廻罠(わたみ)」にしても、死者を畑に帰す因習をめぐる「邪沈(よこちん)」にしても、相当に無茶なシチュエーションだとは思ったが、彼らのマイナスのパワーにねじ伏せられる恰好で、結局納得してしまった記憶がある。なので、乞局にしては実に珍しいことだ。
わたしの中でストンと落ちない理由は、女神(真の神?)を四人の女優(島田桃依、岩本えり、中島佳子、立蔵葉子)が演じていること。(観客にとって、その趣向が余計な目くらましになってしまっている)そして、もうひとつ、章立てまできちんとされた浮浪者たちの国の興亡記が、あまりに駆け足過ぎるところにある。
いや、浮浪者グループと女を結びつけるあたりは、無理がなく上手いし、神々のコミュニティが破綻へと向かう急展開は、目が離せない面白さなのだけれども、短い時間の中でそれぞれの物語を掘り下げるのは、やや欲張り過ぎて、それを果たせなかったきらいがある。唐突に出演者が観客に語りかけてきたり、夢から現実に引き戻されるようなラストシーンなど、印象的な仕掛けも随所にあるのだが。改めて全体を咀嚼しなおした再演をぜひ望みたいところだ。(100分)

■データ
客演陣で賑わう浮浪者コミュニティがいい雰囲気だったソワレ/下北沢駅前劇場
6・17〜6・22
作・演出/下西啓正
出演/岩本えり、下西啓正、墨井鯨子、西尾佳織、三橋良平、池田ヒロユキ(リュカ.)、石田潤一郎、伊藤俊輔(ONEOR8)、佐野陽一(サスペンデッズ)、笹野鈴々音、佐藤みゆき(こゆび侍)、島田桃依、立蔵葉子(青年団)、中島佳子