(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「鬱病のサムシンググレート」エビビモpro.第5回公演

エビビモpro.は、舞台芸術学院のOB卒業だった矢ヶ部哲、山増圭らによるプロデュース公演をきかっけとして、2007年に旗揚げされたプロデュース・ユニット。オリジナルのミュージカル上演を志す彼らの第4回公演にあたる〈シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.1〉でのいい評判を聞きつけ、わたしは足を運ぶことに。
(以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意を!)

まるで売れないマンガ家の麻生太郎(同姓同名)は、ある日女神と出会い、自分のマンガが人に評価されないのは全て「偉大なる神」が予言書に書いている「運命」だったいうことを告げられる。しかし、ある日「偉大なる神」が鬱病になって引きこもってしまい、人々の「運命」を誰も書かなくなってしまった。今、この世の中が荒れているのは、全てそのせいだという。そして、たまたま新たな「運命」の書き手の候補になる勇者の一人に選ばれてしまった麻生太郎(同姓同名)は、世界の覇権を巡る神々と勇者たちの争いに巻き込まれていくのであった。神々が歌う!勇者が歌う!ついでに初音ミク(?)も歌う!
この厳しい時代だからこそ、誰かに責任を押し付けたい。心のさびしい僕だから、無理をしないで愛されたい。政治と宗教と戦争という現代社会が抱える大きな問題を斬新に切り捨てるつもりなんてまるでない、全力後ろ向き生演奏ハイテンションミュージカル! (公式サイトより引用※改行変更)

一体いつの人なの、と思われそうだが、小劇場系のミュージカルはネバーランド・ミュージカル・コミュニティ以来かも。でも、前回公演の好評は、半端じゃなく、期待はかなり膨らんでました。
一見した印象は、若さと数で圧倒しようというかのような勢いと、訓練された歌声がきちんと足並みを揃える素晴らしさかな。ちょっと控えめながら、キーボードとギターなどの生演奏を交えているところも心地よい臨場感を生んでいてポイントが高い。
ただし、全体としてテンションも高いし、熱意も感じられるのだけれども、その達者さが学芸会レベルに留まっているもどかしさもある。ストーリーにしても、役者にしても、まだ発展途上の卵の殻を引き摺っていて、どこか線が細い。主演クラスのしゃなちひろなど、はっとさせる瞬間もあるのだが、全体に力不足。もうひと皮むけてほしいところだ。
追い討ちをかけるようだが、発泡酒の一気呑みやうどんを食べるコーナーは、物語の流れを著しく乱しているので、やめた方がいいと思う。観客を楽しませる精神が根底にあるとしても、観客席から観ると実に寒い。お手軽なお遊びよりも、せっかく達者なミュージカルの腕をさらに磨く方が、彼らの活路を開くことになると思うのだが。(105分)※23日まで

■データ
土砂降りの雨に降られたソワレ/新宿御苑サンモールスタジオ
6・12〜6・23
作・演出/矢ヶ部哲
出演/AD笠原、角島美緒、久住翠希、白井良、深野賢一、平藤和貴子、前田朝子、真山カコ、ウォーレン・リウ、海ノ幸子、熊坂四歩、色城絶、しゃなちひろ、でく田ともみ、永田歩、橋本考世、藤井義浩、山増圭